ロシア人芸術家も出展!現代アートの芸術祭 〜いちはらアート×ミックス2020+ 訪問レポ〜
皆さん、こんにちは! 東京外国語大学ロシア語科4年のりおです。
今回は、千葉県市原市で開催中の野外アートフェスティバル「房総里山芸術祭 いちはらアート×ミックス2020+」の訪問レポートを綴ろうと思います。このアートフェスでは、日本だけでなく世界各国の現代アーティストが市原市の美しい自然と昔ながらの人々の暮らしを背景に作品を展開しています。なんとロシアからも現代アーティストが参加し、それぞれユニークな作品を見せてくれました! 私はツアーに参加し、総合ディレクターを務めていらっしゃる北川フラムさんや、ロシア現代美術にお詳しい鴻野わか菜先生(早稲田大学)から直接お話を聞くことができました☺️
いちはらアート×ミックス2020+って?
このアートフェスティバルは、2014年から「中房総国際芸術祭」として始まり、コロナによる開催延期を乗り越えて今回で第三回目を迎えました。舞台となっている市原市は、千葉県の中央に位置する工業が盛んな都市で、約27万の人々が暮らしています。美しい田園風景や古来から守られてきた里山が広がり、今回初めて市原を訪れた私にとってもどこか懐かしい感じがする町でした。
「いちはらアート×ミックス2020+」は、市原市の歴史、文化、自然、人々の暮らしなど様々な資源を現代アートと融合することで、より魅力的な「いちはら」を再発見しようというコンセプトになっています。なんと17の国・地域から71組ものアーティストが参加し、思い思いの方法でそれぞれ素敵な作品を展開していました! まさに町おこしとアートの化学反応が楽しめる芸術祭です。
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総合ディレクター北川フラム氏による紹介
動画をご覧いただければわかるように、都心からそれほど遠くないとは思えないほど、ほんとうに自然が豊かで昔ながらの人々の暮らしを体感できる地域でした!
ロシア人アーティストが見る日本とは?
ツアーで芸術祭を巡る中で気に入った作品はいくつもありましたが、本記事ではロシア人アーティストの作品に絞って数点を紹介します! 私なりの感想や解釈も併せていますが、アートの解釈は人それぞれなのでぜひ実際に訪れて見ていただければと思います😊
① アレクサンドル・ポノマリョフ(1957-)
「進化」がテーマとなっている本作品は、猿人から現代人への「人類の進化」、そして手押し車から機関車への「動力の進化」を重ねています。作品の全体像を撮影することができなかったので写真はその一部ですが、写っている機関車はなんと1950年代まで実際に使われていたものなんです。
尽きることのない人間の想像力とさらなる技術発展への野望を感じるインスタレーションですね! 作品を見ていると、蒸気機関車がシュッシューと音を出して今にも走り出しそうな気がしました。
このように機関車に乗り込み、機関室の中を見ることもできます! 機関車本体のゴツゴツした重厚感や錆びついたパイプに歴史を感じました。
作家のポノマリョフは、美術学校卒業後は海に憧れて航海士となり、海を主題とする作品を制作してきました。彼はインタビューで「機械は土地の人々の生活を反映している」と語っています。この作品は小湊鉄道五井機関地区に展示されており、ここが芸術祭の出発点となっています。
② ターニャ・バダニナ(1955-)
ポノマリョフと同世代の芸術家ターニャ・バダニナの作品を二つ紹介します。
この作品は、小湊鉄道五井駅のホームに設置されています。《門》と題されていますが、この扉は天国や天空に続いているそうです。作品だよと言われなければ気づかずに通り過ぎてしまいそうですが、改めてよく見ていると、「なんで駅のホームに門なんだろう?」「なんで白?」といった疑問がたくさん浮かんできます。なんだか神聖で優しい感じがして、とても好きな作品でした。
バダニナの作品をもう一つ。
実は、一昨年、市原市の市原湖畔美術館にてロシア現代アートの美術展が開催されました。本作はそこで披露されたバダニナのインスタレーション作品で、現在も同美術館に展示されています。
インタビューにて、バダニナは「翼のオブジェは人々の夢みる力、時間と空間の克服、現実からの飛翔の象徴です」と語りました。翼というモチーフに空高く飛び立とうとしている人々の夢を重ねているとは素敵ですね! 本作は、日本らしい素材である「竹」と「和紙」を用いて制作しているそうで、丁寧かつシステマティックに作られている印象を受けました。
③ レオニート・チシコフ(1953-)
チシコフもまた、ポノマリョフ、バダニナと同じ時代を生きてきた芸術家です。
宇宙飛行士が駅のホームのベンチに座っている!? なんて可愛いのでしょう! 上総村上駅に展示されている本作は、小湊鉄道の七つの駅に展開されるインスタレーション連作のうちの一つです。小湊鉄道を銀河鉄道に見立て、月と宇宙を主題にさまざまな作品を展示しています。
本作は芸術祭のシンボルのような作品なので訪問する前からウェブページなどでよく見ていましたが、本物を目の前にした時は心が高揚しました! この駅から始まる新たな旅…新たな出会い…妄想が膨らみます。
切符売り場には「TICKETS TO THE MOON(月行きの切符はこちら)」と書かれたネオンサインがあります。なんだかワクワクしますね!
チシコフは日本文学・文化に造詣が深く、過去には松尾芭蕉や種田山頭火に捧げた作品を制作しています。彼の今後の創作もとても楽しみですね。
④ ウラジーミル・ナセトキン(1954-)
最後は、ウラジーミル・ナセトキンの作品を紹介します。市原湖畔美術館の野外に設置されており、鑑賞者が作品の中に入ることができる体験型の大きなインスタレーションです。
中に入ると簡単な迷路のような構造になっており、進みながら鏡に自分の姿を見たり、天井や壁の隙間から空や緑を覗くことができます。また、ナセトキンが「聖なる空間」と呼ぶスペースには鑑賞者は入ることができませんが、小窓からそのスペースを覗き込むと鏡張りの床に映る「空」が見えてきます。
私は、この作品自体が人の心を表しているように感じました。ふとしたとき、空を見上げて自分の心の様子を確かめるという経験は世界中のあらゆる人に共通するものかもしれないなと思いました。
まとめ
ここまで、ロシア人アーティスト4名の作品を紹介してきましたが、いかがでしたか?
実は、今回紹介した芸術家たちが生まれ育ったソ連では、政府による文化統制のため自由な創作や展示が厳しく制限されていました。そのような社会背景を知ると、より一層面白く、そして深くアートを堪能することができると思います。
私は卒論でロシアの現代美術について研究しているので、その一環で今回の芸術祭を訪れました。しかし、たくさんの素敵な作品に出会い、市原の自然や街並みに癒されて、思いがけなく満喫してしまいました! 全ての作品を見ることはできなかったので、時間があればまたいつか訪れたいと思います。
アートは、やっぱり自分の目で見て感じることが一番! 「いちはらアート×ミックス2020+」の開催は12月26日までですので、興味のある方はぜひ訪れてみてくださいね😃
文責:りお
参考文献
『房総里山芸術祭 いちはら×アートミックス2020+』(展覧会カタログ)美術出版社、2021年。
*今日のロシア語*
фестиваль искусств(フェスティヴァーリ イスクーストフ)
意味:芸術祭
произведение(プライズヴェヂェーニエ)
意味:作品