東京外国語大学ロシアサークルЛЮБОВЬ(リュボーフィ)のブログ

「未知なる魅惑の国」であるロシアならではの文化から、留学や旅行のこと、東京外国語大学でのキャンパスライフのことまで。このブログでは、東京外国語大学のロシアが大好きな学生たちが様々なテーマに沿って日替わりで記事を書いていきます。ЛЮБОВЬ(リュボーフィ)とは、ロシア語で「愛」を意味します。

ロシア語劇インタビュー(演出編)

語劇インタビュー(演出編)

東京外国語大学の学園祭『外語祭』では、2年生が専攻言語で演劇をする『語劇』という目玉イベントがあります。今回のインタビュー企画では、ロシア語劇で「演出」を務めた学生さんにお話を聞きました!

 

インタビュイー:小副川将剛(おそえがわ しょうご)さん ※以下敬称略

今年の外語祭ロシア語劇では演出を務める。ロシア語演劇サークル「コンツェルト」に一年次より所属。同サークルにて役者、舞台美術の経験あり。

好きなロシア語はсегодня(シヴォードニャ)「今日」。理由は、自分の名前(Сего)が単語の最初の四文字に当たるから。(“ならでは“で素敵ですね!)

 

インタビュアー:岩出野々瑚(いわで ののこ)

今回のロシア語劇では役者として参加。

 

岩出「それでは早速、語劇に関して聞いていきたいと思います。まずは作品の紹介をお願いします!」

小副川「今回上演する「死の勝利」(原題Победа Смерти)は1907年にロシアで書かれたフョードル・ソログープという前期ロシア象徴主義を代表する詩人の一人が書いた戯曲になります。あらすじをお話すると、真実の美を求めるドゥリチニェーヤは、その望みが叶わぬことを悟ると姿と時を変えて、自らの望みである真実の美が讃美されるために新たな計画を練ります。それは自身の美人の娘アリギスタに王妃ベルタの座を乗っ取らせる計画です。 その計画が成功してアリギスタは王妃になりかわり、王はそんなアリギスタを王妃として愛するようになるのですけれども、やがてアリギスタは他人として、乗っ取った王妃として愛されるのではなく、自分自身として愛されたいと考えるようになっていきます。そういうお話です。続きは見に来ていただけると嬉しいです。」

岩出「ありがとうございます!次に、実際に語劇の中で演出としてやる仕事内容は何ですか?」

小副川「演出の仕事内容も結構いろいろあるのですが、まず一番は最初に戯曲を選ぶところですね。どの戯曲をやるのか選んで解釈するところと、本当は全部やりたいのですけれど、語劇は時間が決まっているので、それに合わせてカットする作業があります。それから語劇は全員参加ではないので参加者を募って配役したり、スタッフを各班に振り分けたりもしました。あとは舞台監督と打ち合わせてスケジュールを決めて運営していきます。そしてなにより役者の稽古ですね。役者にどういう動きをしてほしいのかとか、どういう演技をしてほしいのかということを言って、それを直していきます。それから私は舞台美術も兼ねているので、舞台の設計もします。 あと、照明・音響をどうするのかを決めるのも演出のやることです。舞台上で起こることすべてが、基本的に演出のイメージから始まることだと思うので、まず考えて、それを舞監と調整したうえで言語化してあちこちに案出しをしていくというのが、仕事内容になると思います。」

岩出「演出の仕事は本当に多岐に渡るよね…。ほとんど全てに目を向けるのは大変で、それをしているのはすごいなあといつも思っています。」

小副川「好きな作品だからできることです。」

岩出「ではそのように演出する上で、気を付けていることや方針など、もしあれば教えてください。」

小副川「気を付けていることですか。最初にプロフィールを聞かれたときにお答えしましたが、私はロシア語劇団コンツェルトというサークルに入っていて、演劇をやりたいから、興味があるからやっています。一方で今回の語劇は学校の行事としてやっているので、役者もスタッフも含めてみんな必ずしも演劇をやりたいわけではないし、語劇の優先度がそんなに高いというわけではないのはわかっています。コンツェルトと同じように求めてはいけないと気をつけていますね。あくまで演劇大国である自身の専攻地域ロシアの文化に触れることや、劇を通しての専攻言語の能力向上が目的の教育的行事ですからね。あとは、演出が何を求めているのかをできるだけ明確に言語化して伝えるように気をつけています。」

岩出「なるほど。話が変わりますが、なぜこの作品を選んだのか教えてほしいです。」

小副川「この作品を選んだのは、去年の11月頭くらいに、ネイティブのナターリヤ・ヴィクトロヴナ・バルシャイ先生(演劇がご専門)から演出の指名がきたので、せっかくなら好きな作品をやろうと思いました。いろんな戯曲を読み、いくつか候補を用意したうえでプロメテウスホールの限界や時間の制約の中で作品を絞っていきました。あと、できれば皆でできるように10人以上の役者を使いたかった。そういった条件でいろいろ探して候補を絞っていたのですがピンとくるものがなくて悩んでいました。そんな時期にたまたま死の勝利を見つけました。それを読んだ瞬間にこれをやろうと思いました。すごく美しい作品で、一瞬でぞっこんになったので。でも実は最初のころは先生に反対されました。というのも、悲劇は演じることが難しいと言われています。先述したネイティブの先生からは、悲劇は役者の技量が少しでも及ばないと一気に白けてしまう一方で、喜劇は台詞や動作そのものが面白いのであって、役者の技量が達していなくても観客を楽しませることができるから今回のような学生の演劇では喜劇をやるべきという理由でとても反対されました。悲劇の中でも特にソログープは難しいし、ロシアでもほとんど演じられていない作品なので、参考となるものがほとんど存在しない中自分でやっていかなきゃいけないとも言われました。12月中に戯曲についての話し合いをずっとしていて、といっても私が死の勝利を推して、先生が喜劇に変えるべきと反対するという流れでしたが…。最後はそんなに言うのなら演出の好きな作品をやるべきと言われて決まりました。」

岩出「演出する上でこだわったことはなんですか?」

小副川「今回の死の勝利は先ほども言ったように演じられたことがほとんどなく、なおかつ本職が詩人であるソログープの戯曲ということもあり、さまざまな制限がある中でその世界を壊さないように演出することがこだわった点…ですかね。どういう風に見せて自分たちの演劇をやるかも考えました。」

岩出「苦労した点や、(まだ練習は終わってないけれど)乗り越えたことはなんですか?」

小副川「苦労した点はあげるとキリがないですが(笑)まずは戯曲を選ぶ段階で、ネイティブの先生と、実は助手にも「ちょっとこれは…」と反対されていて、何人かの反対を押し通すというのは最初の関門でした。次の関門はコンツェルトで2月に役者をやるというのにその本番2週間前までにカットの第一版をメールするようにネイティブの先生に言われたので、春休みとはいえその両立に苦労しました。他の点としては、すでに何回か話に上がっていますが、この演目は全く演じられておりません。少なくとも日本では私が調べた限りでは記録がありませんでした。ですが偶然語劇とは関係ないところで、ロシアにいらっしゃる演出家と沼野先生の主催されたイベントで昨年度その演出家とお会いしました。そのことを思い出したので沼野先生に連絡先を聞いてその方にダメ元で「ソログープの『死の勝利』を演出するのですが参考になるものがなくて困っています。」と相談しました。そうしたらお返事をいただいて、ロシアでも結構昔に有名な演出家の元で演じられた記録があるにはあるが最近は演じられていないので参考になりそうな映像は見当たらないと教えてくださいました。そして送っていただいたロシア語の雑誌に手がかりがありまして、それを中心に組み立てて演出を考えるのに苦労しました。演じられたのが一世紀近く前ですからね。そのあたりが苦労して乗り越えたことになりますかね。」

岩出「なるほど…。演出をする上で色々な方に相談しているのですね。」

小副川「そうですね。沼野先生や前田先生のところへお邪魔したときにソログープの話や象徴主義のお話をしていただいて、それがヒントになって…。ホールの制約は去年、一昨年に演出された先輩方に教えていただきました。こう考えると本当に色々な人に支えられていますね。」

岩出「上演するのが楽しみだなと思いました!」

小副川「あなたも出ていらっしゃるのですけどね!」

岩出「そうですね笑。次の質問ですが、演出をやってよかったと思う点や、やりがいはありますか?」

小副川「自分の好きな作品の脳内のイメージが形になっていくのは楽しいです。やっていてよかったのは、役者の皆さんがどんどん上手くなってセリフも覚えていって…。最初に稽古した時から本番に近づくにつれて成長していくのは見ていて楽しいですね。」

岩出「素敵ですね…」

小副川「苦労した点はもう一つあって。自分のイメージをいかに言語化して伝えるかがすごく難しくて。(役者の)皆さんは個々の人間で、当然一人一人考えは違いますし、私と完全に同じ思考をしている人はないと思います。そのなかでいかにして私の中にあるイメージを言葉にして役者に伝えて、あるいは時々自分でやってみせて、こうしていったほうがいいと伝えるのには苦労しています。特に言葉の選び方とかいつ言うかですね。一度に全部直させようとすると役者も混乱すると思うので直す部分に優先順位をつけています。そうして今は直さなくていいけど、上演までの何処かでできれば直したいなという時に、私はよく「今は大丈夫」とか「今はこれでOK」と言う言葉を使います。その「今は」と言って残しておいた部分をいつ言うのかは、苦労している点ですね。」

岩出「なるほど。役者を経験したことがあるからこそ生じることですね。」

小副川「あとやっていてよかったことといえば、演者からこうしたいと言われた時は演出としてとても嬉しいですね。役者がそれだけ劇に向き合ってくれて、自分で考えてこうした方がいいのではと言ってくれた時に、こっちからこれでいこうと言ったり、ここは演出として別の考えがあるからじゃあ間をとってこれでいこうと言ったりとか、役者とそういう話す時はとても楽しいですね。それからカットした台詞をもう少し言った方が良いと思うからのばしてくれと最近とある役者にお願いされましたが、そういうことを言ってくれるのもそれだけ役に向き合っていることとしてうれしいですね。」

岩出「さすが演出家ですね!次に、語劇を一緒にやっていくメンバーとの何かエピソードはありますか?」

小副川「配役が記憶に残っています。配役は5月初旬にしましたが、その段階で面識のない人も複数いました。こういう状況では体格やくせ、普段の話し方や性格を見たうえで役を決めること、いわゆるはまり役に全員を割り振ることは難しいですよね。とはいえ知っている人間をはまり役にして残った役を面識ない方に押しつけるというのも不公平ですよね。そこで役者たちに希望の役を調査して極力第3希望以内の役につけるように配役しました。こういうやり方で決めたので配役を発表した時にはこれでうまくいくのかと不安がありました。けれど稽古を始めてみて、意外とこの配役で良かったのではないかなと思ったことは結構記憶に残っていますね。」

岩出「私も演者として参加していて、それぞれの役を他の人がやることがもう想像ができないくらいハマってきていると思います!次の質問ですが、観客に見てほしいポイントがあればぜひ教えて欲しいです。」

小副川「今回演じるソログープの戯曲はチェーホフなど有名な劇作家の作品と違って日本ではあまり知られていない作品です。とくにその作品をロシア語で演じられているのを見る機会はなかなかないと思います。そう言った普段触れる機会のないものを楽しんでいただけたらと思います。また戯曲にかぎらないことではありますが、文学作品にはその原語ならではのよさがあると思います。今回は詩人による戯曲ということもありロシア語で演じるからこそ戯曲の言葉選びなどもより楽しめると思うのでそこも感じていただけたら嬉しいです。」

岩出「最後に一言、お願いできますか?」

小副川「他の役者やスタッフなど参加している全員で作り上げる意気込みなので、ぜひ見に来てください!当日来られない方はオンライン配信もぜひ!!」

岩出「今日は長い時間ありがとうございました!」

 

ロシア語劇『死の勝利』は11月19日(土)13:00~13:50にプロメテウスホールにて上演されます!ぜひ見に来てください!