東京外大生にインタビュー!第1弾【ポーランド語科編】〈後編〉
ポーランド語科こうきさんへのインタビュー
↓前編はこちらよりどうぞ
tufs-russialove.hatenablog.com
【留学編】
―留学や旅行に行ったことはありますか?
留学は短期も長期も行ったことがあります。短期では約一カ月、長期では約半年間留学しました。
―留学はどちらに行かれたのですか?
短期留学(ショートビジット)には3回行ったのですが、一度目(一年冬)と二度目(二年冬)はどちらもクラクフに行きました。その際2~3週間ほど現地の大学のプログラムに参加したあと、一人で周辺を旅行しました。三度目はグダンスクに行きました。この三回目のショートビジットは、実は長期留学に行く直前の三年夏のことなのですが、ポーランド語のスピーチコンテストで入賞し、副賞としてポーランドでのサマーコースに参加する機会をいただけたために行きました。長期留学ではポズナンに行きました。
↑クラクフとグダンンスクの丁度真ん中あたりに首都ワルシャワが位置しています。
↑ワルシャワからポズナンまで、車でおよそ3時間程度の距離があります。
―沢山行かれていますね!ちなみに、長期留学でポズナンを選んだのはなぜですか?
外大と派遣留学の提携を結んでいるポーランドの大学は二校で、クラクフとポズナンにあるのですが、このうちクラクフのヤギェロン大学の方が人気なんです。ポズナンの大学(アダム・ミツキェヴィチ大学)の方が派遣の選考に通りやすいこと、また、クラクフにはショートビジットで既に二回行っていることもあってポズナンを選びました。少し王道と外れたところに行ってみたかったというのもあります。
―特に印象に残った思い出はありますか?
今年(2020年)の2月頃、ウクライナへ旅行に行ったのですが、既にコロナウイルスが流行り始めていたんですよね。まだヨーロッパでは感染が広がっておらず、特にアジア人が「コロナ」と差別されていた頃です。ポーランドからの出国は問題なくできたのですが、帰りに入国する際に、入国審査場で審査官に呼び止められてしまいました。
「きみ、日本人だよね?ポーランドに何しに来るの?数週間前に中国とか日本とかにいなかった?大丈夫?」とやや高圧的な態度で、英語で話しかけられました。
初めは英語で答えていたのですが、なんだか雲行きが怪しくなってきて、思い切ってポーランド語で「自分は日本から留学生で10月からポーランドにいる」ということを伝えたら、今までとは打って変わった態度ですんなり通されました。
自分のポーランド語が彼らに伝わったことはもちろんうれしかったですし、対応もむしろそれが適切かもしれないのですが、もし僕がポーランド語を話さないアジア人(外国人)だった場合、あのまま厳しい態度で対応されていたかもしれないと思うと冷や汗が出ます。
―部外者に対しては厳しい態度を取る感じは少し怖いです…。もっとも、ポーランドに限った話ではないのだろうと思いますが。
他に、留学中、何か印象に残った出来事はありますか?
ワルシャワ国際映画祭で外大のポーランド語科にスポットを当てた映画が上映され、それを見に行ったことです。撮影されたのは何年か前の話で、映っているのは先輩方なのですが。ただ、その場にいた外大生ということで、質疑応答の際に自分にマイクが回ってきて、「なぜポーランド語を勉強しているのか」というおなじみの質問が投げかけられました。
―「どうしてポーランド語を選んだかは覚えていません。だけど、僕は学ぶ価値があるから勉強しています」と答えたんですよね。
そうです。詳しいことはnoteに書いてあります。
(↓こちらです)
「ポーランドwww 確かにそれは需要ないです」
https://note.com/4toyama/n/n3a62d7c5e0a5
―印象に残った場所はありますか。
昨年の夏に滞在したグダンスクというバルト海に面する港町がとても気に入っています。かつてハンザ同盟都市として繁栄するなどドイツとの関わりが深く、さまざまな建築様式の建物が並んでいて、どこかポーランドらしくない雰囲気が印象に残っています。僕自身も港町の出身なので、グダンスクはいつか住んでみたいです。
―港町、いいですね!
実際にポーランドに行ってみて、現地の風習などに対して驚いたことはありますか?
個人的に驚いたのは、お墓に対するイメージが日本とは違っていることです。日本のお墓はどこか不気味な印象がありますが、ポーランドではそれよりもオープンで明るい印象を受けました。ポーランド人は墓地に対して公園に近い印象を抱いているのかもしれません。
実は、留学に行く前に外大のポーランド人留学生が「多磨霊園で散歩をする」などと話しているのを聞いたことがあり不思議に思っていたのですが、納得がいきました。
日本のお盆にあたる11月の諸聖人の日の夜に見た、花や蝋燭がたむけられた墓地は幻想的できれいでした。一般人の墓については蝋燭が1,2個ほどたむけられているのが普通ですが、著名人の墓には蝋燭が沢山あり、まるでライトアップのようでした。
また、ポーランドには敬虔なカトリックが多いので、ハロウィンのイベントはありません。長期留学中、周りの留学生に「ハロウィンやろうよ!」と言うパーティーピーポーがいましたが、先生に「ポーランドではやらない」と諭されていました。
―そうなんですね(笑)ちなみに、長期留学では、他の留学生はどのような国から来ていたのでしょうか?
短期留学では結構韓国人が多かったのですが、時期がずれていたのか、長期留学では見かけませんでした。アジア系では、中国人が数人いたほか、トルコ人がいました。他には、何かしらポーランドにゆかりのある人、例えば母親がポーランド人だけれど生まれの地が違って話せない人だとか、そのようなスラヴ系の留学生がかなりの数いました。
―なるほど、彼らはポーランドで仕事をするためにポーランド語が必要になって勉強していたということでしょうか?
そうですね、ポーランドで生活するために勉強していました。彼らが話すポーランド語はスラヴなまりで、自分にとってはむずむずしました(笑)
―現地の人々の様子はどうでしたか?治安は良いですか?
僕のまわりの人たちはとても優しくて親切にしてくれました。ポーランドの治安はとても良いと思っていたのですが、長期留学していたポズナンはなぜかサイレンの音が絶えず鳴り響いていました……。
―治安はあまりよくなかったのでしょうか…?
治安が悪いと言うと語弊があると思います。ポーランドは日本に負けないくらい治安が良いと思っているので…。最近警察による取り締まりが強化されているようなので、サイレンがよく鳴っていたのはそのせいかもしれないです。
【進路編】
―語科の卒業生はどのような進路に進む方が多いですか?
ポーランドとは全く関係のない企業で働く方、公務員として働く方も多いですが、ポーランド関係の仕事でいえば、日本でポーランド語を使う仕事に就いた方もいらっしゃれば、ポーランドで日本語の先生や翻訳の仕事をされている方もいると聞いています。
―そうなんですね。ちなみに、こうきさんはどのような進路を考えていますか?
将来はJリーグに関わる仕事に就きたいと考えています。近年、日本で活躍するポーランド人の選手も増えつつあるので、ゆくゆくはサッカーを通じて日本とポーランドを繋げたいです。また、ポーランド人の友達が日本サッカーに関する情報を発信しているサイトの編集者なので、近いうちに、ポーランド語でJリーグに関する記事を書いて友達のサイトに掲載したいなと密かに思っています。
―すてきですね!ちなみに、今現在、その言語や地域に関わる活動や仕事をしていますか?している場合、どのようなきっかけで始めましたか?
先ほど述べたポーランド人の友達のサイトの記事の作成を、不定期ではありますがときどき手伝っています。その友達がJリーグの選手にインタビューをする際に、アポイントメントをとる手伝いをしてほしいとお願いされたのがきっかけです。
【ポーランドについて知ろう編】
―ポーランドについて勉強する最初の一冊となるようなおすすめの本はありますか?
渡辺克義(2017)『物語 ポーランドの歴史 東欧の「大国」の苦難と再生』(中央公論新社)がおすすめです。建国から現在に至るまでの歴史が順を追ってわかりやすく書かれています。あと、藤田泉(2019)『中世の街と小さな村めぐり ポーランドへ 最新版』(イカロス出版)という本は写真が豊富で、ポーランドの「かわいい」を見ることができて楽しいと思います。
―二つ目の本、表紙からして可愛いです。
ポーランドの「かわいさ」は、かなり日本人受けするものだと思います。いわゆる「映え」るものがたくさんあります。言葉の壁さえなければ、ポーランドという国は相当日本人にとって住みよい街のはずです。
―その言葉の壁がかなり分厚いですけれどもね…。
ポーランドの文化・芸術で有名なものはありますか?
音楽家のショパンが有名です。空港名にもなっています(ワルシャワショパン空港)。
ショパンを聴きながらポーランドの街中を散歩することもありましたが、今思うと非常に贅沢なことをしていたなと思います。
僕は音楽には疎いのですが、次にポーランドへ行くときにはショパンのピアノコンサートに足を運びたいです。
―ショパンを聴きながらポーランドの街を散歩するのって、とってもお洒落ですね…!ロシアだと結構あちこちに劇場があって連日バレエの公演をやっていたりするのですが、ポーランドにも劇場やコンサートホールは沢山あるのでしょうか。
バレエはロシアほど盛んではないですが、ミュージカルやコンサートは結構やっています。ポスターをよく見かけました。日本よりはそういった施設が多く、また国民との距離感も近いように思います。
―そうなんですね。音楽以外では何かありますか?例えば映画とか。
ポーランドの映画はけっこう世界的にも有名です。日本でもよく知られているものといえば、ロマン・ポランスキー監督の「戦場のピアニスト」でしょうか。アンジェイ・ワイダという映画監督も有名です。あとは、先ほどの「好きな講義」のところで挙げたパヴェウ・パヴリコフスキも。
ポーランドにはウッチという町に国立の映画学校があり、そこから多くの映画監督が輩出されています。ウッチは町全体が映画の町としてよく知られています。また、毎年秋に開催されるワルシャワ国際映画祭は世界14大映画祭のうちの一つです。
―そうなんですか!映画には疎いもので、初めて知りました。有名どころだけでも観ておきたいです。
文学では何かありますか?
最近ノーベル文学賞を受賞したオルガ・トカルチュクが有名です。僕は「Szafa」という作品を手元に持っています(注:邦訳なし)。邦訳のある有名な作品は「昼の家、夜の家」、「逃亡派」などです。
―初めて知りました!今度読んでみます。
芸術以外の分野でポーランドの著名人といえばどのような方がいますか?
地動説で有名なコペルニク(コペルニクス)やノーベル賞を受賞したマリー・キュリー、最近だとサッカーのロベルト・レヴァンドフスキがいます。エスペラントを作ったルドヴィコ・ザメンホフもポーランド人です。
―エスペラントを作った方がポーランド人だったとは、初めて知りました!なんだか、ポーランド人って天才が多くないですか…?
―話は変わりまして、ポーランドの政治情勢について少しお聞きします。知っている範囲で構いませんので、近年のその地域の政治・経済の状況を教えてください。
7月に大統領選挙があり、現職で保守派のアンジェイ・ドゥダ大統領がリベラル派のチャスコフスキ氏を僅差で破りました。アンジェイ・ドゥダ氏の得票率が51%、チャスコフスキ氏の得票率が49%と、本当に僅差です。性的マイノリティの権利の問題であったり、対外ではEUとの関係であったりが今後どうなるのか気になっています。
―EUとの関係ですか?
あまり詳しくないのですが、司法制度をめぐってEUと少し衝突しているようです[1]。
今までポーランドはEUから資金をもらい、そのお金でインフラ整備などを行っていたのですが、今、ちょうど転換期に来ていて、これからはもうポーランドも資金を提供する側になるんです。そういう意味でもポーランドの行く末が気になります。
[1] https://jp.reuters.com/article/poland-eu-judiciary-idJPL4N28S06D(最終閲覧日2020/10/1)
【ロシア×ポーランド編】
―ポーランドとロシアの関わりについて知っている情報はなにかありますか?
すぐに思いつくのは18世紀に国土を分割されたことや第二次大戦中・後のソ連の影響などですかね。
―ポーランド分割といえば、エカチェリーナ二世が地図に線を引っ張っている絵が思い出されます…。
ポーランド人の対露感情はどのようなものでしょうか?
僕が留学中に関わった人たちは主に同世代で若い人たちが多かったためか、ロシアに対して特に何かしらの感情を抱いているという印象は受けませんでした。ただ、友達の家に泊めてもらったとき、彼のお父さんはあまりロシアが好きではなさそうだったので、年配の方になればなるほど対露感情は良くないのかなと思います。
―そうなんですか。ソ連時代を経験しているか否かでかなり異なるのでしょうか。
でしょうかね。上の世代の方には結構ロシア語を勉強されていた方も多いようです。英語は学んでいなかったようです。逆に今の若い世代は、ロシア語は勉強しておらず、英語教育を受けています。
ちなみに先ほどの友達のお父さんは、ロシアのことを直接否定するようなことはなかったのですが、僕が「ポーランド語の他にロシア語も勉強している」といったことを話すと、顔を少し曇らせて、「ロシア語なんて勉強しなくていいよ!ポーランド語だけで十分だよ」とおっしゃっていました。別の年配のポーランド人と話していても、同じようにロシア関係の話でその人の顔が曇ることがあったので、上の世代ではぼんやりとロシア(というかソ連)に対するマイナスイメージはあるのかなと思います。
―なるほど…。
他に、ロシアに関連するポーランドの情報は何かご存じですか?
そうですね・・・そういえば、ワルシャワに文化科学宮殿というスターリン様式の建築物があります。展望台からの眺めはきれいで好きなのですが、どうしても異様な感じがするのは否めないです…。
―スターリン様式の建物が異様に見えるのは、スターリン様式そのものが異様ということですか?それとも、ポーランドには合わないということでしょうか。
どちらかというと後者かな。この建物は街中にあり、周りの建物から浮いた印象を受けるんです。ただ、ある意味とても目立つので、ランドマーク的な部分もあり、いつも空港からワルシャワ中心部へ出るバスの窓からワルシャワ文化宮殿を見ると「ああ、ポーランドに来たな」という気分になります。ロシア風の建物を見てポーランドを感じるというのは少し変な話ですけれども。
―いかにもポーランドらしい建物で、目立って有名なものは何かありますか?
そうですね…ワルシャワではなくクラクフになりますが、聖マリア教会はそんな感じの建物です。一定の時間に建物のてっぺんからラッパが飛び出してきて音楽が鳴るのですが、今そのメロディーを聴くと泣いてしまうかもしれません。
―素敵な建物ですね!私もいつか直接見てみたいです。
本日は長い間インタビューに付き合ってくださって本当にありがとうございました!
興味深いお話をいくつも伺うことができて楽しかったです。
インタビュー記事の中に載せた他にも、さまざまな写真を見せていただきました!
ちなみにこうきさんは、Jリーグに関する動画(応援歌など)にポーランド語字幕を付けたものをいくつかYoutubeに投稿されています!サッカーが好きな方やポーランド語を勉強されている方はぜひご覧ください^^
インタビューへのご協力本当にありがとうございました。
文責:R
(インタビュー実施日2020/7/28)