ポーランド語科こうきさんへのインタビュー
【外大生活編】
―外大に入った理由と、ポーランド語科を選んだ理由を教えてください。
もともとヨーロッパに漠然とした興味があって、しばらくはドイツ語専攻に入りたいと思っていました。ですが出願の直前になって、「『グーテンターク』は知っている人も多いけど、ポーランド語のあいさつは何も知らないなあ。ポーランド語のほうが面白そう!」くらいの気持ちでポーランド語専攻に決めました。直感で決めたも同然ですが、サッカー観戦が好きなので、ドルトムントに所属していたレヴァンドフスキやピシュチェク、ブワシュチュコフスキ、ジュビロ磐田のカミンスキといったポーランド人選手の存在が頭に浮かんだのかなと思います。
―なるほど!割と直感で決められたのですね。ちなみにポーランド留学中にドイツには行きましたか?
長期留学中、サッカー観戦のためだけに、ほんの少しだけ行きました(笑)もっとしっかりした旅行もする予定でしたが、コロナの影響で行けずじまいでした。
―コロナウイルスはすべての予定を狂わせますね。
大学には実際入ってみてどうでしたか?思っていたことと違った!ということはありましたか?
語弊を恐れずに言うと、語科の同期の男子が僕ひとりだとわかったときはサプライズの意味でもショックの意味でも予想と違っていて驚きました。もともと女子生徒の比率が高い大学であることは知っていましたが、まさかとは思いましたね。
―大学に入ってみたら身の回りに男子がいないって、なかなか無い事態ですよね…。今ではもう慣れましたか?
慣れるどころか、順応しすぎています。上ではショックの意味でもとは言いましたが、同期の13人とは出会えて本当に良かったなと感じます。ポーランド語という言語を媒介にしていろんな人と出会えたことは、外大に入って良かったと感じることの一つです。
―素敵ですね!逆に、ポラ科(注:ポーランド語科の略)に入って後悔したことや辛かったことはありますか?
1年生の秋ごろだったか、文法が理解できなさすぎて、ネイティブの先生のもとに行って半泣きになりながらマンツーマンで教えてもらっていたときは本当に辛かったです。
―そんな時期もあったのですね。でも、マンツーマンでネイティブの先生が教えてくださるって凄いですね。
とても熱心な方でした。メッセンジャーで先生にポーランド語が出来ないことを相談したら、「○日、○日の〇時が空いているから研究室に来なさい」と返信してくださり、実際に研究室に行って文法の特訓をしました。
―こうきさんが本当にポーランド語科を愛していることが現時点で既によく伝わってきます。語科の雰囲気を教えてください。
個人的にはとげとげしていなくて、先生方も含め、いい意味でゆるっとしているのが好きです。学生と先生方の距離が近いのもポーランド語科の魅力の一つです。クリスマスには語科の全員でパーティーもします。
―小人数の語科ならではという感じがします!素敵ですね。他にも語科全体で行うイベントはありますか?
春に行う語科オリエンテーションのほか、先ほど述べたクリスマスパーティもありますし、他にも、12月6日の「ミコワイキ(Mikołajki)」というポーランドの祝祭日にもイベントがあります。この日はサンタクロースの起源である聖ニコラウスの日とされており、子供が大人からプレゼントを貰います[1]。ポーランド語科では、語科のみんなでプレゼント交換を行います。また、大使館関係のイベントがあるときもみんなで集まって参加します。
[1]https://japoland.pl/blog/mikolajki%ef%bc%88ミコワイキ%ef%bc%89/(最終閲覧日 2020/10/1)
【勉強(言語)編】
―ポーランド語の勉強はどのように進みますか?(例:ロシア語科の場合、一年次はネイティブを除きすべて文法、二年次はほぼすべて講読。)
2年次の途中までは、基本的にどの授業でも文法を中心に進んでいたと思います。日本人の先生方の授業で文法事項をザーッと学び、ネイティブの授業で、日本人の先生方が一時間で終わらせるような内容を何時間もかけて勉強します。
先生方いわく、日本人講師の授業で森を知り(全体像を掴み)、ネイティブの授業で木を知る(細かい部分を拾っていく)とのこと。文法事項の勉強を終えたあとは、講読や翻訳、コミュニケーションの授業などを取っていました。
―1,2年次はかなりしっかりと文法を勉強するのですね。
ポーランドに関する授業で最も面白かったものは何ですか?
映画監督であるパヴェウ・パヴリコフスキのインタビューや評論などの読解の授業が面白かったです。フィードバックがとても丁寧で、逐語訳・直訳から読みやすい日本語にする練習ができて良かったです。
―訳を細かく勉強できるのは良いですね!
はい。他にも、日本文学の作品のポーランド語訳を和訳して、もう一度日本語に直すという練習もしました。
―とっても面白そうですね!
ちょっとした身の回りの物の名前、たとえば食べ物なんかが、ポーランド語訳される過程でポーランドの物に変化していたりして、改めて日本語に直すとかなり違いがあり、それを見比べるのもまた面白いです。
―少し話は変わりますが、語科と関係なく、個人的に取っていて好きだった外大の授業も教えてください。
教養外国語(注:他の大学でいう、いわゆる第二外国語)のロシア語をとっていたのですが、ロシア語だけでなくロシアに関係するおもしろい話をたくさん聞けたのでとても楽しかったです。あまり学生の数が多くないためなのか、さほど厳しくなく、ゆるく学ぶことができました。ロシア語のアクセント移動は嫌いですが、がんばってロシア語を勉強して近いうちにロシアにも行ってみたいです!今では肝心のロシア語は”Сегодня суббота, я не работаю.”(今日は土曜日です。私は働きません。)しか言えませんが……。
―楽しそうですね!私も教外の授業でゆるくロシア語を勉強したい…。ロシアに行くなら、極東であればビザの取得がインターネットで出来て簡単なのでおすすめです!近いですし。
【勉強(専門)編】
―所属しているゼミと、入った理由、勉強している内容を教えてください。
ポーランド語学を学ぶ、語科ゼミに所属しています。(注:地域研究に特化した、基本的に語科の学生のみが集まるゼミを語科ゼミという)
理由はとてもシンプルで、ポーランド語が好きでポーランド語をもっと深く知りたかったからです。今のところはポーランド語を歴史的・言語学的観点から学んでいます。
―具体的に、ゼミではどのような形で授業が進むのでしょうか?
自分は3年の秋から留学したためまだ春の講義しか受けていませんが、その時は、ポーランド語の言語学に関わる本の一部を読みました。論文ではなく、(ポーランドに住む)一般人でも読めるような言語学系の本です。
―楽しそうですね!ゼミでの勉強の面白さは何ですか?
ロシア語やチェコ語といった他のスラヴ語との比較からもポーランド語の特徴や魅力を再発見できるのが面白いです。とにかくポーランド語とじっくり向き合えることが何よりの楽しみです。
―ロシア語とポーランド語の比較ですか!例えばどのようなものがあるのでしょうか?
Лес(森)、место(場所)という単語がロシア語にもポーランド語にもありますが、ロシア語の場合、リェース、ミェースタと読みますね。しかし、ポーランド語では、ラース、ミャースタとеの読み方が変化します。ところが前置格になると、リェーシェ、ミェーシチェとまたе(イェー)の音に戻るんです。こんな風に、ロシア語とポーランド語には異なる部分も重なる部分もあり、面白いです。
―へええ、不思議…。どうして前置格ではイェーの音に戻るんでしょうね。
ちなみに卒論のテーマは決まっていますか。
まだ何も具体的には決めていませんが、ポーランド語の語彙や文法性に興味があります。
―文法性ですか。女性とか中性とか男性とか、そういうのですよね。なぜ興味があるのですか?
近年ポーランドでは、ジェンダー意識の広がりのためか、もともと男性形しかなかった職業名の単語に対して女性の語尾を付けることが増えています。また、スピーチなどでも、人々に呼びかける際に、今までは男性形の名詞の呼格でしか呼びかけていなかったのを、「男性+女性のみなさん」という形で両性に対して呼びかけるようになりました。そういった文法性についての認識の変化に少し興味があります。
―ポーランドではそのような動きがあるのですか。興味深いことに、ロシア語ではむしろ働く女性の職業名に対して女性形を使わずに男性形を使うことが多いです。例えばロシア語には「писатель 作家」「писательница 女流作家」という単語がありますが、ここで女性に対して「女流作家」という単語を使うと、女性に怒られることがあるんです!「作家」「女流作家」と分けると、なんだかその女性の作家が二流のように聞こえてしまうのだそうです。「自分も男性と同じ土俵に立って作家として活躍しているんだ!」ということを主張するために、自ら「作家」を名乗る女性が多くいます。
そうなんですか!面白いことを聞きました。ポーランド語と他の言語でそのような比較をするのも面白そう。
―比較、面白そうですね!ロシアのその感覚は、日本のそれとちょっと似ているかもしれません。日本でも最近、スチュワーデスや看護婦のような言葉は使いませんし、女医さん、女流○○などもあまり言いませんね。
(※以上のような理解を記事執筆者はしているのですが、もし情報に誤りがありましたらコメント等で教えていただけると幸いです。
特にソ連時代の女性は、家事も仕事も完璧にこなす“スーパーウーマン”であることを求められており、かつ、死別や離別によって夫と別れていたケースが多く、その場合は女性ひとりで「母」と「父」、両方の役割を担わねばならなかったようです。そのため女性は、自分は男性と同格である、いや、もはや、自分は(女性であり、かつ)男性でもある、という意識があったのかなと思います。現代ロシアではまた異なる価値観が生まれているかもしれません。
まだ勉強不足なのですが、ロシアの女性については、沼野恭子「アヴァンギャルドな女たち」でその様子を垣間見ることができます。また、言語とジェンダーの関係については、中村桃子「ことばとジェンダー」などが参考になるかと思います。)
文責:R
(インタビュー実施日2020/7/28)
↓後編はこちら
tufs-russialove.hatenablog.com