東京外国語大学ロシアサークルЛЮБОВЬ(リュボーフィ)のブログ

「未知なる魅惑の国」であるロシアならではの文化から、留学や旅行のこと、東京外国語大学でのキャンパスライフのことまで。このブログでは、東京外国語大学のロシアが大好きな学生たちが様々なテーマに沿って日替わりで記事を書いていきます。ЛЮБОВЬ(リュボーフィ)とは、ロシア語で「愛」を意味します。

東京外大生にインタビュー!第4弾【中央アジア地域編】〈後編〉

f:id:tufs_russialove:20201011183625p:plain

中央アジア地域ロシア語・ウズベク語専攻Kさんへのインタビュー

 

↓前編はこちらからどうぞ

tufs-russialove.hatenablog.com

 

【留学についてのあれこれ(つづき)

―留学してみて気付いた現地の特徴はありますか?

ロシア語とカザフ語が入り混じっていることです。街の道路標識やメニューなどは、カザフ語とロシア語両方の言語表記があります。

f:id:tufs_russialove:20201012171541j:plain

アルマトイでは基本ロシア語とカザフ語の2言語表記ですが、このボタンは英語も含めた3言語表記です。上からカザフ語、ロシア語、英語となっています。

また、映画館で上映される映画は大抵ロシア語音声・カザフ語字幕です。欧米映画のオリジナル英語音声ではほとんど観ることができません。

 

—映画館ではオリジナルの英語音声での上映はほとんどなく、ロシア語吹き替え&カザフ語字幕がほとんどだということは、カザフスタンでは日本などに比べて英語の影響力が小さいのでしょうか?

そうですね、街中で英語を見かけることもほとんどありませんでした。強いていうなら、外資系のビジネスマンや英語が母語の留学生とすれ違うことがたまにある程度でした。もし私たちが外国人だとわかっても、英語で話しかけてくるのはやんちゃなカフェの店員くらいでしたね(笑)。とはいえ、カザフスタンでも最近は英語教育に力を入れているらしく、私の通っていたカザフ国立大学の中の国際関係学部では、オールイングリッシュの授業が行われていました。

 

カザフスタンでそんな英語教育が行われているというのは少し意外でした。カザフスタンへはどの国からの留学生が多いのですか?

一番多いのは中国からの学生でした。中国本土からの留学生に加えて、新疆ウイグル自治区出身で、カザフ系のルーツをもった学生が数多く留学に来ていました。彼らの言語状況は様々で、中国語をベースに、カザフスタンでは国際関係学部で上述の通りすべて英語の授業を受けている人もいました。カザフ語をベースとして、ロシア語を勉強しているという人もいて様々でした。

その次に多いのがアフガニスタンからの留学生で、彼らの中には日本に興味を持っている学生が彼らは昨年9月に中村哲さん(パキスタンアフガニスタンでの医療活動に加え、インフラ整備等にも従事していた。)が銃撃事件により亡くなると、追悼のセレモニーを開いてくれました。それ以外にも、韓国、トルコ、ウズベキスタントルクメニスタンアメリカ、フランスなど、本当に様々な国からの留学生がいました。

 

―中村さんが亡くなったとき、カザフスタンではそんなことが行われていたのですね。悲しい事件ではありましたが、そのようなセレモニーを開いてもらえたというのは、日本人としては心の暖まる出来事ですね。

 

―現地におけるロシア語とカザフ語の話に戻りますが、アルマトイでは、現地の方々は何語を主に話されていたのでしょうか?

人々の会話は、人にもよりますが、ロシア語で話していると突然カザフ語になる、またはその逆が起こるといった場合や、接続詞だけロシア語であとはカザフ語、なんて場合がよくあります。

相手によって使う言語を分けている例もよくあります。カザフ語とロシア語が両方同じくらい使える人の場合、カザフ語優勢の人にはカザフ語で、ロシア語優勢の人にはロシア語で話しています。

私はカザフ人らしい顔に見受けられることが多く、基本的にタクシー運転手やスーパーのレジの人の第一声はカザフ語でした。同じ状況で友人の日本人は常にロシア語で話しかけられていましたが。

 

—Kさんご自身は、カザフスタン留学中はカザフ語とロシア語をどのような頻度で使っていましたか?

留学前の春学期に、週に1コマカザフ語の授業を取っていたのですが、カザフ語の勉強は本当にそれだけで、現地ではロシア語が通じるのでロシア語をメインで使って生活していました。カザフ国立大学でもカザフ語の授業は50分×週2コマのみで、カザフ語はそこまで伸びませんでしたね。ほぼロシア語で生活してました。でも、ちょっと道を聞かれた時などは「そっちだよ」「あっちだよ」程度であればカザフ語で会話ができました。

 

—なるほど。Kさんは国社なので、語学留学というよりもカザフスタンの内情を知るための留学だったのでしょうか?ウズベキスタンではなくカザフスタンを長期留学先として選んだのはなぜですか?

留学先にカザフスタンを選んだ理由は3つあります。1つ目にロシア語。ウズベキスタン中央アジア地域の学生の留学先としてメジャーですが、スタディツアーで訪れた時にはロシア語よりもウズベク語が中心に話されているというように感じました。私はロシア語をメインで学びたいと思っていたので、中央アジアの中でも広くロシア語が使われているカザフスタンを選びました。2つ目の理由として、カザフスタンは経済発展著しい新興国であり、一国の成長や変化の様子を自分の目で見ることは将来のキャリアにとっても貴重な経験になるかもしれないと思ったからです。3つ目の理由がボランティアです。語学勉強以外にできる活動の場を探していて、ちょうどアルマトイでボランティア団体が見つかったんです。以上の理由から留学先にカザフスタンを選びました。

 

—Kさんはカザフ人らしい顔で、何度もカザフ人と間違えられたということですが、その辺りのお話をもう少し詳しく伺いたいです。

そうですね、とにかく私はカザフらしい顔立ちらしくて…(笑)。元々カザフ人の中に日本人と顔立ちが非常に似ているタイプの人がいるためだと思います。アルマトイでは外見ではあまり外国人だと思われないのが印象的でした。

留学開始直後、レストランで当然のごとくカザフ語で話しかけられ、まごついていると「なんだカザフ人じゃないのか」と逆に驚かれることがよくありました。

日本人だとわかると、「カザフ人と日本人は遺伝学的には兄弟なんだよ!」と嬉しそうに話してくれる人が多いです。韓国人の友人と一緒にキルギスの首都ビシュケクに行ったときには、ホステルの主人に「君たちカザフから来たのか?キルギス人とカザフ人は兄弟なんだ!」と言われ、話しているうちに、結局カザフ、キルギス、韓国、日本、みんな兄弟だな!ということになりました(笑)。顔立ちも似ているし、言語の特徴が似ている(カザフ語、キルギス語、日本語、韓国語は語順が同じという意味で)のも面白いなと思いました。

 

また、メイクを現地の人に寄せると完全に間違えられます。髪型もロング(センター分け)が多く、腰くらいまである人も結構います。とにかく眉とアイメイクをがっつりという子ばかりで、メイクにあまり多様性はなかったです。ファッションも画一的で、革ジャンが好きだとか、黒スキニーが好きだという子が多かったですね。でも、みんな脚が長く、スタイルが本当にいいです。

 

―そうなんですね!もう少し詳しく現地の方々の様子について教えてくださいますか?

多民族・多国籍・多宗教の多様性溢れる場所だと思います。

カザフ人から聞いた話だと、カザフの遊牧文化には「遠方から来た人を丁重にもてなす」という文化があるそうです。現在は都市化しておりそのような遊牧生活を営んでいる人はほとんどいませんが、かつての遊牧生活の中で育まれた文化は考え方は現在も息づいているようで、実際、旅行や留学で来た人達に優しく接してくれる人が多いように感じました。

親戚や家族をとても大切にしている人が多く、家族とは頻繁に連絡を取っているようです。個人差はありますが、人間関係において相手のことを広く知ることで距離を縮めていくが多いかもしれません。何人家族で、彼らが今どこで働いているのか、などを授業でもずばずばと聞かれます。日本だと個人情報としてあまり聞かないようにすることも、オープンに自分から話す人もいますね。

挨拶はハグ・握手で、親しい人同士では道でばったり会っただけでも、結構しっかりとハグします。

他に現地で感じたこととしては、遊びの予定などが結構直前に決まるということでしょうか。明日会おう、今週イベントをやろうなど、基本的に短期的な考え方が主流かもしれません。

 

―治安はどうでしたか?

治安は良いです。夜間に出歩いても特に危険を感じることはありませんでした。

  

中央アジア料理はロシア、中国、インド、中東の食文化が融合したもので、だからおいしい、なんて言いますが、実際、留学してみて食生活の面ではどうでしたか?

うんうん、まさに料理に現れていると思いますね。私の留学していたカザフスタンには、トルコ料理もあれば、中国料理もあれば、新疆ウイグル自治区の料理も、ロシア料理も、もちろんカザフ料理もあって、本当に食べ物の種類には困らなかったです。私はトルコ料理ばかり食べてましたけどね(笑)。あと食べ物といえば、タクシーに乗った時に外国人だとわかるたびに「ベシュバルマク(馬肉を使ったカザフの麺料理)は食べたか?」と聞かれました。100回くらい(笑)。

f:id:tufs_russialove:20201012165812j:plain

 

カザフスタンについて、政治・経済・文化などなど 

中央アジア地域やカザフスタンについて勉強する際の最初の一冊となるようなおすすめの本はありますか?

中央アジアを知るための60章」や「カザフスタンを知るための60章」がおすすめです。

  

―近年のカザフスタンの政治・経済の状況を、Kさんのご存じの範囲で構いませんので教えてください。

大統領権力が強い政治体制がとられているようです。経済的には、ロシア資本、そして近年では韓国・中国の資本が積極的な進出を進めていると言われています。

    

カザフスタンの音楽で有名なものはありますか?

音楽なら、ディマシュ・クダイベルゲン(DimashKudaibergen)という男性歌手が有名です。

(ディマシュ・クダイベルゲンについて知らない方はこちらのリュボーフィの記事をチェック!!)

カザフスタンの国民的歌手-ディマシュ・クダイベルゲン - 東京外国語大学ロシアサークルЛЮБОВЬ(リュボーフィ)のブログ

 

そういえば、川又さん(聞き手)はディマシュがお好きなんですよね? 

 

—そうなんですよ!あるYouTuberの方の動画で出会うことができました。カザフ人に彼の話をするとどんな反応をするんでしょうか?

カザフスタンでディマシュの話をしたら喜ばれますよ。カザフスタン出身の国際的に活躍する歌手ということで、誇りを持って彼のことを語る人が多いです。彼と同郷の人は特に。

もともと彼はカザフスタン国外の中国で人気を集めたのですが、そのうちに「我らがカザフ人!」という感じでカザフスタンでも持ち上げられるようになったそうです。

個人的には彼が民族楽器ドンブラを迫力満点で弾く姿もかっこいいと思います!

(参考)https://youtu.be/Z7GZkShQK7s

 

実は私もアルマトイでドンブラ教室に通ってたんですよ。だからこそあんなに速く指を動かせるの、本当に尊敬しちゃいます。ドンブラを始めた理由としては、音楽の才能はないと思っていたのですが、何か新しいことにチャレンジしてみたかったのと、あと割と暇だったので(笑)。ドンブラといえば、大学の教科書販売所で日本人の友達と会話をしていたら「日本語ちょっとわかります」と話しかけてきたトルコ人の男の人がいて、実は彼はドンブラ奏者を仕事としている方だったんです。その人に「友人の出ている演奏会に行こう」と誘われて一緒に行ったことを思い出しました。カザフスタンではそんな突然の出会いがたくさんありましたね。

 

―そうなんですね!実は私もカザフスタンに留学したらドンブラを習いたいと思っていたんです。そしてそんな出会いもカザフスタンならではというか、日本ではあまりなさそうな体験ですね…!楽しそう。

 

―映画では何か有名なものはありますか?

Бизнес по-казахски(カザフ人流のビジネス)シリーズは、現地人も認める面白い映画です。You tubeでフルで観られます。

https://youtu.be/10Iyadqcqq0

 

―他に、現地で盛んな文化・芸術などがありましたら教えてください。

オペラやバレエなどを日本に比べ安価で観られるので、留学中何度も通いました。

f:id:tufs_russialove:20201012171859j:plain

アバイ記念カザフ国立オペラ・バレエ劇場では、なんと500円でこんなオペラを鑑賞することができたそうです!

【ゼミ・留学後の現在、将来についてなど】

―所属しているゼミと、入った理由、勉強している内容を教えてください。  

中央アジア地域研究のゼミに所属しています。中央アジアの地域研究は他の大学ではほとんど学べないため、せっかく環境があるなら専門性を高めてみようと思い、また、中央アジア地域は他地域との関係も含めて研究の切り口がたくさんあり面白そうだと思って選びました。

内容はゼミ生個人によって異なり、それぞれが自身の興味のあるテーマについて勉強しています。

私の場合、留学前はカザフスタンの帰還民(オラルマン)について、留学中・後はカザフスタンの廃棄物の増加・リサイクル問題をテーマにしていて、政府政策やボランティアなどの市民活動について調べています。留学中にボランティア活動をしていたことがきっかけになりました。留学中の自分の体験を自分のフィールドワークを研究に生かせるのがおもしろいなと感じます。

 

—留学中のボランティアではどのような活動をされていたのですか?

休日に年代がバラバラ(小学生からおばさんまで)な有志の市民で集まって、マンションや集合団地の裏などに不法投棄されているゴミをプラスチックだとか燃えるゴミだとかに分別して、分別したものをしかるべき業者さんに送り届けるというボランティアをしていました。

もともとアルマトイではごみ収集のシステムがうまく働いていないんですよね。真冬には氷の下に埋まった瓶を掻き出すみたいなこともしていました。

 

—留学中の体験から興味を広げられるって素晴らしいですね!

卒論はどのようなテーマで書く予定ですか?

カザフスタンの廃棄物の増加・リサイクル問題がテーマで、政府政策とボランティアなど市民活動について書く予定です。

 

―将来就きたい仕事や、仕事ではなくてもこれをやってみたい!という夢はありますか?

ロシア語を使ったり、何らかの形で中央アジアと関係を持ちながら仕事ができればと思っています。

 

―現在就活中ですか?

そうです。今のところ私はいろいろな企業を見ている段階なのでまだ決定ではないですが、医療機器の輸出や医療技術の提供が、現在日本と、ロシア・中央アジアの間でホットらしいので、その辺りの企業に特に注目しています。医療レベルがやはり日本に比べると低いので。

 

—医療ですか…勉強になりました!

 

 

ロシア×カザフスタン

カザフスタンとロシアの関わりについて、ご存じのことを教えてください。

カザフスタン旧ソ連国であり、現在もロシアとの経済協力関係は続いています。

カザフスタンの国家語はカザフ語、公用語はカザフ語、ロシア語です。カザフ語を優位にしようとする動きもありますが、ロシア語が重要であることに変わりはないと思います。政治的な場、例えば大統領の年末の演説ではカザフ語―ロシア語の順で話していました。ビジネスの場ではロシア語・英語の使用機会が多いと聞きます。

 

ロシア制作の映画や音楽なども人々の間に自然にあるものです。年代が上の人を中心に、ロシア文学やロシア語そのもの、そしてソ連時代の記憶を大切にしている人が多いという印象を受けました。

 

―そうなんですね。カザフスタンに住むカザフ人の、ロシアやロシア人に対する印象をお伺いしたいです。

「ロシアが嫌い!」という人と、生活している限り出会うことはありませんでした。

現代的な生活の中でもカザフ文化を大切にしている人はいるようで、カザフの民族衣装を身につけている女性や、カザフ人の歴史を詳しく語ってくれるタクシー運転手さんには数多く出会いました。

言語の面では、ロシア語もカザフ語も同じくらい話せるけれども、カザフ語で話すほうが好きという人もいました。友人が体調を崩して救急車を呼んだとき、現地の医師が診察をカザフ語でやりたそうにしていたのにはロシア語をメインで勉強していた外国人としては少し困ってしまいましたが(笑)

とはいえ、ロシアを含めて、色々な民族の調和、協調、多様性を大切にするという意識が人々の中にあるように感じました。

 

―最後に何か一言あればお願いいたします!

いわゆる“マイナー”な地域ではありますが、知れば知るほど面白い地域だと思います。

文字通り“中央”に位置している地域なので、その周辺にある国・地域との関連を調べてみるのも面白いと思います。より多くの人に興味をもってもらえるとうれしいです。

 

 

―今回のインタビューは、カザフスタン留学もいいなと考えていた私にとって、とてもいい機会になりました!ますますカザフスタンという国が魅力的に感じられるようになりました。Kさん、お忙しい中時間を割いていただきありがとうございました!

 

Kさんは東京外国語大学オープンキャンパス動画の制作に関わっていらっしゃったそうです。

ロシア語科中央アジア地域についてさらに詳しく知りたい方はぜひこちらもご覧ください!

www.youtube.com

 

文責 : 川又