東京外国語大学ロシアサークルЛЮБОВЬ(リュボーフィ)のブログ

「未知なる魅惑の国」であるロシアならではの文化から、留学や旅行のこと、東京外国語大学でのキャンパスライフのことまで。このブログでは、東京外国語大学のロシアが大好きな学生たちが様々なテーマに沿って日替わりで記事を書いていきます。ЛЮБОВЬ(リュボーフィ)とは、ロシア語で「愛」を意味します。

東京外大生にインタビュー!第14弾【ヒンディー語科編】〈前編〉

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ヒンディー語科 誤訳流通センターさんへのインタビュー

 

皆さんこんにちは!

東京外大ロシア語専攻新4年のりおです。

 

今回は、東京外大ヒンディー語科4回生3年生の誤訳流通センターさんにインタビューをさせていただきました!初めてこのお名前を見たときは思わずクスッとしてしまいますが、外大生のTwitter利用者の中でも非常に有名な方なんです。

実は私も大学一年の時にボランティア事業でインドに行ったことがあるので、南アジア地域を専攻されている方から直に話を聞けるのをとても楽しみにしていました。

 

誤訳流通センターさんについて 2017年4月に東京外国語大学言語文化学部ヒンディー語科に入学。2019年冬に約一か月の短期留学と2019年秋〜2020年春に長期留学でそれぞれインドに滞在。南アジア文化のゼミに所属し、古代インドの宗教について研究されています。ちなみに、「誤訳流通センター」という名前はヒンディー語の講読の授業で誤訳を連発したことからつけたそうです(笑) センスが光っていますね!

 

ヒンディー語科について

外大生の間では「ヒン科」と省略して呼ばれることもあるヒンディー語科。ヒンドゥー語ではありません!誤訳流通センターさんの言語文化学部と国際社会学部合わせて約25名の中語科で、中高のクラスのように仲が良く、賑やかな雰囲気だそうです。

 

【大学生活】

―今日はよろしくお願いします!まず、誤訳流通センターさん(以下、誤訳さん)が外大に入り、ヒンディー語科を選んだ理由を教えてください。

外国語や異国の地に対する憧れが大きかったからです。また、世界史でインド史を学んだ時にインドの歴史・文化・言語などに興味を抱いて、言語文化学部ヒンディー科を志望しました。

 

―高校の世界史からなんですね。

きっと未知のものに惹かれたんですよね。例えばヨーロッパや中国の歴史は多くの日本人がすでに少しは知っているものですが、僕にとってインドはあまり馴染みがなく、カレーや牛といったようなイメージしかなかったので、大学でしっかり学ぶには面白いかもしれないと思いました。

 

―実際に入学してみてどうでしたか?思っていたのと違った点はありましたか?

ヒン科に限った話ではないですが、忙しすぎたのが驚きでした。入学前は世間の大学生はもっと暇なイメージがあったので、僕も大学生になればもう少し解放されるだろうと思ったのですが、あまりにもハードだったので「あれ、なんだこれは…」と思いました。

 

―南アジア地域の地域基礎が厳しいというのは外大生の中でも有名な話ですよね。

そうですね(笑) 地域基礎の授業で先生がお話しされた内容をみんなスマホで録音するんですよ。それを授業後に文字起こしして大筋をまとめて、だいたい毎週4000字くらいのレポートを提出するという感じです。

 

―一年生で毎週その文字数はかなりきついですね…。地域基礎の授業では具体的にどんなことを学ぶんですか?

インド含め南アジアの歴史や各国の成り立ちを教えてもらいます。具体的には、インドの宗主国イギリスが植民地時代にどんな政治政策を行ったか、言語というものに着目してどんな言語政策が取られたか、というような内容の回がありました。あとは南アジア各国の政治状態の話ですね。ヒン科の他にベンガル語科とウルドゥー語科の生徒も一緒に受講するので、扱う地域としてはインド、バングラデシュ、パキスタンがメインです。

 

―言語政策ですか。インドに関してはあまり聞き馴染みがありませんでした。

植民地時代の言語に関するルールから、独立後の諸言語の動きですね。例えば、イギリスが統治する過程でインドのことを知って後々のインド支配を円滑にするため、カルカッタに東インド会社の社員の子どもが通うエリート学校を作って、インドの諸言語(ヒンディー語、ウルドゥー語、ペルシャ語など)を学ばせていました。そこで勉強した人々が判事や裁判官になってインドの民事裁判に実際に介入するということがありましたね。独立後だと、ヒンディー語をインドの国語にしようとしたところ、インド南部の非ヒンディー語話者の人々が反対運動を起こしたため、それが原因でいざこざが起こることもありました。

 

―なるほど…。言語って社会を作っていく上でとても大事な要素なんですね。

 

―授業のお話に戻りますが、ヒンディー語の語学授業はどのように進みますか?

一年次で文法を叩き込んで二年から読解です。一年から二年は基本週5コマです。

 

―ヒンディー語の文字って日本人には馴染みのない不思議な形をしていますよね。覚えるのは大変じゃなかったですか?ええと、なんという文字を使うんでしたっけ…。

デーヴァナーガリーですね!入学して3、4週間はひたすら文字の練習でしたが、慣れてしまえば大丈夫です。

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出典:https://indiamylover.com/2017/10/09/hindi2devanagari/

―ヒンディー語の授業も結構大変でしたか?

先生によりますね。テストを重視する先生の授業では僕は単位を取るのに少し苦労しました。一年生のうちは二人の日本人の先生から文法をしっかり習い、もう一人のネイティブの先生から実践的な会話を習います。やはり多くの人が苦労するのは文法なのかなと思いますね。

 

―文法って気合いですよね(笑) ちなみに二年生の読解ではどのようなテクストを読むのでしょうか?    

先生が現地で手に入れた新聞や雑誌を読みます。僕はバインダーに入れて自分の訳と先生の訳と照らし合わせて見れるように保存しています。(記事を指して)例えば、これは「数字の中に埋もれたトイレたち」というタイトルの記事です。役人は国のトイレ事業をもう完了したというんですが、本当はインドではまだまだ普及していなくて、やっつけ仕事で取り付けられたトイレが多いんですよね。こういう社会問題や現代のニュースの内容をヒンディー語を学びながら知れるので面白いですね。

他にも、(他の記事を指して)これは「手からこぼれ落ちるタージマハル」というタイトルの記事です。世界遺産のタージマハルはとても綺麗に見えますが意外と汚かったりどこか壊れていたりしてガタガタなんですよね。

 

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タージマハル

―語学をしながらインドの内情を知ることもできるんですね!ちなみに、文学作品は読むことはないんですか?ロシア語科では二年生の講読でロシア語の短い文学作品を翻訳する授業もあったのですが、ロシアと同様にインドも文学が盛んな国というイメージがありますが。

そうですね。文学は別の先生の授業で少し読みますが、本格的なヒンディー文学を読む授業は三年生以上に開講されています。もちろん文学作品を原語で読めるに越したことはないと思うのですが、どちらかというとヒンディー語科で力を入れているのは現代も通じる共通標準ヒンディー語なのかもしれませんね。

 

―では少し話を変えて、ヒンディー語科の全体の雰囲気はどんな感じですか?

25人位の中語科なので、中高のクラスのような雰囲気です。外語祭の料理店や語劇では時々揉めることもありましたが、なんとかみんなで乗り越えてこれたと思います。一年生の時の料理店では、もっと人数の少ない語科に比べればまだ余裕はあるだろうと思っていたのですが。カレーを作り続けるのにこんなに人が必要だったとは…と(笑)

 

―そうですよね!(笑) 語科によって人数の差は結構ありますよね。

ところで、誤訳さんは教養外国語(略して「教外」。他の大学でいう第二外国語)でロシア語を取っていらっしゃったんですよね。ロシアに興味を持っていただいて、なんだか私も嬉しいです。

そうですね。ロシア語を教外で選択していた人はモンゴル、チェコ、ポーランドあたりの語科が多いので、僕は珍しいかもしれません。ヒン科で教外をとるとすれば、中国語、朝鮮語、スペイン語が人気です。

 

―他にも、語科と関係なく、外大の授業で面白かったものはありますか?

ロシア絵画の授業は、僕にとって新鮮なことばかりで面白かったです。

 

―ロシア絵画の授業を履修されていたんですね!私も同じ授業を取っていました。

3年生以上の選択科目は専門性が高いものが多いんですが、この授業は「ロシア絵画入門」ということだったので、これなら素人の僕でも大丈夫そうだと思って取ってみました。

 

―ちなみに、授業で紹介された中で誤訳さんが気に入られた画家や作品はありましたか?

そうですね、ヴルーベリのデーモンという作品シリーズは良かったですねえ。不思議なタッチですよね。リトアニアの画家チュルリョーニスの明るい黄色い絵なんかも素敵だと思ったのですが、ヴルーベリのデーモンはそのおぞましさがむしろいいなと感じました。

(著作権の関係でここでは掲載できませんが、ぜひ画像検索してその雰囲気を味わってみてください。)

 

―それでは、誤訳さんは現在就活中ということで、インドに関わる仕事についても少しお聞きしたいと思います。日本の学生が将来インドと関わる仕事に就きたいと思ったときに、具体的にはどのような分野や業界の仕事が挙げられるのでしょうか?

政治面で関わりたいならば、外務省職員か、または現地に滞在できる新聞社や放送局の支部の職員があります。他の民間企業では、鉄鋼の専門商社、海運業の会社、データサイエンスのマーケティング会社、航空会社、旅行会社、食品会社など…本当に多岐にわたる業界がインドに進出しています。例えば、デリー近郊のグルガーオンという町には、日本企業がたくさんあることで知られています。ですから、自分のやりたいことの軸が一つでも定まっていれば、必ずインドに通じる道があるんじゃないかと僕は思いますね。夢が広がりますよね。

 

―そうなんですね!私はロシアに進出している会社を少し知っていますが、インドの場合ほど数は多くないと思います。ちなみに、インドでのビジネスについて私も少し調べたのですが、ヒンディー語よりも英語ができたほうがいいという話が多くありますよね。

インドの日本人駐在員の方は基本業務は英語のみでやっていけてるので、英語ができればそれに越したことはないと僕も思います。ヒンディー語をやってきた身としては、彼らもヒンディー語を少しできるといいのかな、なんて思うこともありますけどね。

 

【ゼミ】

―誤訳さんはどんなゼミに所属されているのですか?

中世ヒンディー文学ゼミに所属しています。実際に作品を読んだり、学生の卒論研究の経過発表をするという感じで、各々の研究テーマは中世ヒンディー文学に限らず、さまざまです。僕は主にインドの宗教や風俗に関することを研究しています。

 

―卒論はどのような内容を書く予定ですか?

僕は、古代インドのバラモン教とそこから派生した仏教、さらにその仏教が日本にやってきてからの日本の死生観の変化や、インドから伝えられた閻魔(エンマ)様の姿の変化を追っています。誰にでも訪れる死や死後の世界の理解のために、自分なりにアプローチできればと思っています。

 

―なるほど。日本と関わりのあるものを研究するというのは、日本人ならではの観点でしょうから独自性があって素敵ですね。

現地文献も読めればいいのですが、日本ですでに研究されてる文献も多いので、取り掛かりやすい面もあります。なかなかダークなトピックですが、以前から死後の世界に興味があったので、どうせなら研究してみたいと思ってこのテーマを立ててみました。同期の友人は、サーリーなどインドの服飾文化、仏教、祭典・儀礼の研究をしている人もいますね。

 

―実は私も以前にインド文学基礎という授業をとっていたんです。サンスクリット文学はそれまで全く知らなかったのですが、新鮮ですごく勉強になりました。(外大では、このように専攻地域ではない地域に関する授業を自分で選んで履修することもできます。)

そうでしたか!興味を持ってくださって僕も嬉しいです。

 

☆次回!ヒンディー語科後編!

-圧倒?安全?インド留学について!

-チベット料理のレストランにロシア語!インドとロシアの意外な関係に迫ります!

 

文責:りお

(インタビュー実施日:2021年2月11日)