東京外国語大学ロシアサークルЛЮБОВЬ(リュボーフィ)のブログ

「未知なる魅惑の国」であるロシアならではの文化から、留学や旅行のこと、東京外国語大学でのキャンパスライフのことまで。このブログでは、東京外国語大学のロシアが大好きな学生たちが様々なテーマに沿って日替わりで記事を書いていきます。ЛЮБОВЬ(リュボーフィ)とは、ロシア語で「愛」を意味します。

『罪と罰』から学ぶ翻訳表現

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出典:https://www.nhk-book.co.jp/detail/000000351562018.html

今回は、フョードル・ドストエフスキー著の『罪と罰』の名場面を取り上げたこの書籍を参考に、ロシア語から日本語に翻訳する際の表現について取り上げてみたいと思います!

私は、翻訳する際に、直訳すると文が変な感じになったり、丁度良い表現が見当たらなかったりすることがあり、講読の授業でそれによく悩まされています。

今回『罪と罰』を取り上げて翻訳の表現方法について学ぶことで、今後綺麗な翻訳ができるように、柔軟に頭を働かせたいと思います。

罪と罰』はとても複雑な話で翻訳が難しい箇所が多くあるため、今回は、日常生活でも使いやすいような比較的簡単な表現をピックアップします。

 

 

まずは最初、主人公ラスコーリニコフ登場のシーン。

彼は自宅から外出する際、家主の台所の脇を通らなければなりませんでしたが、その際、やましい気持ちを覚えていました。その理由は、家主に大きな借金をしていたためです。

ここで、1つ表現を取り上げます。

 

① Должен+与格「~に借りがある」

 

罪と罰』では、このように書かれています。

Он должен кругом хозяйке「家主に借金がすっかりたまっていた」

つまり、『罪と罰』では、借りがある=借金をしている、という意味でこの表現が用いられています。

しかし、借りがある=借金をしている、という意味だけではありません。

借りがあるとは、「してもらったことに対して恩義を感じており、何か恩返ししなければならない」という気持ちを指しています。

このため、こういう気持ちを表現したい時に、<Должен+与格>の表現を使用してみると良いかもしれません。

 

 

その後、外出したラスコーリニコフが酒場に行くと、酔っ払いと借金の支払いの話になりました。ここで、1つ表現を取り上げます。

 

② Из сего ничего не выйдет「~をしても無駄である」

 

このロシア語を直訳すると、「~しても何も出てこない」となるため、つまり、「~をしても無駄である」と捉えることができます。

罪と罰』では、「何の見込みもなく借金を頼み込んでも無駄である」と酔っ払いが話している際にこの表現が使われています。

普段においても、否定を強調したい際などにこの表現を用いると良いかもしれません。

 

 

その後、ラスコーリニコフはついに殺人を犯してしまいました。ラスコーリニコフが老婆を殺した所を、リザベータは目撃していました。ラスコーリニコフがリザベータを斧で襲おうとすると、彼女は自身の手で自身の顔をかばおうとしますが、それは顔には到底届いていませんでした。ここで、1つ表現を取り上げます。

 

③ Далеко не до+生格「~には到底届かない」

 

リザベータはこれまでたくさんいじめられ脅されていたせいで、斧が頭上に振りかざされていたのにも関わらず、最後まで自身をかばう姿勢を見せませんでした。

このように、『罪と罰』では、この表現が、殺人という緊迫した場面で物理的な意味で使われていました。

しかし、日常生活においても、Далеко не до цели:「目標には到底届かない」というように、諦めの気持ちを表す際などにこの表現を用いると良いかもしれません。

 

 

次は、捜査官ポルフィーリーが、殺人を犯したラスコーリニコフの思想について強気に質問するシーンです。ポルフィーリーはラスコーリニコフに、「あなた自身、きっと自分のことを同じく『非凡人』で新しい言葉を語る人間と見なしていないことはありえない」と言います。ここで、1つ表現を取り上げます。

 

④ Быть того не может чтобы не「~しないことはありえない(二重否定)」

 

この表現は二重否定であるため、つまり、自身の意見を強調したい時に用いることができます。

罪と罰』では、実際、冒頭にラスコーリニコフが、人間が新しい言葉を語るのを恐れるのに対し自身はおしゃべりが多すぎると独り言を話すシーンがあったため、ポルフィーリーのこの言葉は的を射ているといえます。

ロシア語で意見を強調したい時、且つ、その意見の根拠が確かなものであるといえる時などに、この表現を用いると良いかもしれません。

 

                      

今回は簡単なものだけを取り上げましたが、以上のように、文学から学べる表現はたくさんありますね。

今回、翻訳表現に注目しながら『罪と罰』を読んでみて、翻訳する際には、直訳だけではみえてこない、言葉の裏にあるイメージを膨らませることが大事である、と改めて認識することができました。

この学びを今後活かすことができるよう、頑張ります!

 

 

 文責:Na

 

 

【出典】 

原作:フョードル・ドストエフスキー 訳・解説:望月哲男「ロシア語対訳 名場面でたどる『罪と罰』」, NHK出版, 2018

NHK出版ホームページ「ロシア語対訳 名場面でたどる『罪と罰』」

https://www.nhk-book.co.jp/detail/000000351562018.html                 

 

*今日のロシア語* 

преступление(プリェストゥプレーニエ)

 意味:罪

наказание(ナカザーニエ)

 意味:罰