Ох, прямо в ад идем! おい、地獄さ行ぐんだで!
(オーフ、プリャーマ ヴァド イジョーム!)
一度読んだら忘れられない書き出しで始まる、小林多喜二の『蟹工船』。
ロシア語訳もされており、現代でも多くの人々に読み継がれているとても有名な作品です。
読んだことある!という方もたくさんいらっしゃると思います。
そして、この本がロシアと繋がりを持つということを知っている方もいらっしゃるかもしれません。
この作品はプロレタリア文学(労働者の過酷さを訴えた文学)として有名です。
作者の小林多喜二は表題にもなっている「蟹工船」で行なわれている過酷な労働状況や、そこで働く貧しい労働者の様子を生々しく描くことで、ブルジョワ階級や政府を批判しようとしました。
小林多喜二といったプロレタリア文学作家には、ロシアの文豪たちが多大な影響を与えたと言われています。
しかしここで触れたいのは、ロシアが日本のプロレタリア文学に与えた影響ではありません。
この作品と舞台となっている「蟹工船」は「博愛丸」という船で起きた事件が元となっていると言われることが多いです(諸説あり)。
そしてその「博愛丸」は、当時の日魯漁業会社さん(現在のマルハニチロさん)という会社が所有していたものです。
この会社の名前を聞いたことがある方も多いでしょう。
「ニチロ」という言葉が入っているように、日本とロシアを舞台に活躍している水産会社です。(他にも日本とロシアの間で水産業を行っている会社は、森川商事さん、横浜通商さんなどたくさんあります。)
また、この『蟹工船』にはロシアの人々も登場しています。
――次の朝、川崎船は半分水船になったまま、カムサツカの岸に打ち上げられていた。そして皆は近所のロシア人に救われたのだった。そのロシア人の家族は四人暮しだった。女がいた理、子供がいたりする「家」というものに渇していた彼等にとって、其処は何とも云えなく魅力だった。(※引用1:青空文庫『蟹工船』より一部引用)
川崎船というのは舞台となる蟹工船のことですが、その船が漂流してしまった際、労働者たちはロシアの人々と出会います。
――初め皆はやっぱり、分らない言葉を云ったり、髪の毛や目の色の異う外国人であるということが不気味だった。
何アんだ、俺達と同じ人間ではないか、ということが然し直ぐ分らさった。(※引用1:青空文庫『蟹工船』より一部引用)
初めは恐れ慄いていた労働者たちでしたが、ロシア語を通訳してくれる支那人の助けも借りて次第にお互い打ち解けていく、という様子がここでは描かれています。
なぜ多喜二がロシアの人々を登場させたかということには様々な見解がありますが、彼等を友好的な人々として描いたということに、多喜二が日露関係をどのように捉えていたかということだけは、はっきりとわかります。
『蟹工船』が書かれた時代には労働者たちは船に乗って、遠く離れたロシアの海でカニをとってくるということを余儀なくされていました。
しかし現在では、水産業のあり方が大きく変わりました。
ロシアと日本との間で取引を行う会社が勃興したこと、戦後に経済水域が定められたことなど様々な要因がありますが、『蟹工船』に描かれているように、過酷な労働状況の中でロシアの方までカニを取りに行かなくても、美味しいロシア産の魚やカニが食べられるようになったのは、両国のビジネス関係が成立したおかげであるといっても過言ではありません。
漁業を通じた日ロの歴史。今回このブログではあまり深いところまで掘り下げることができませんでした。日本とロシアの漁業における友好関係は長らく存在していたということ、そして私たちが今、美味しいロシアの魚やカニを口にすることができるのは、このような歴史のおかげだということを学ぶことができたと思います。
皆さんもぜひ、スーパーなどに行ったらロシア産の魚やカニを探してみてくださいね!
以上、ぼーりゃがお送りしました!
文責:ぼーりゃ
※引用1:
https://www.aozora.gr.jp/cards/000156/files/1465_16805.html
【参考資料】
ロシア語訳された「蟹工船」
https://blog.goo.ne.jp/takiji_2008/e/e8942c3081555deec9a433fc9e3e8d41
小説を旅する 第3回 蟹工船(小林多喜二著) 北洋の荒海に浮かぶ監獄「蟹工船」
http://kai-hokkaido.com/novel003/
*今日のロシア語*
краб (クラープ)
意味:カニ
ад (アーッド)
意味:地獄