東京外国語大学ロシアサークルЛЮБОВЬ(リュボーフィ)のブログ

「未知なる魅惑の国」であるロシアならではの文化から、留学や旅行のこと、東京外国語大学でのキャンパスライフのことまで。このブログでは、東京外国語大学のロシアが大好きな学生たちが様々なテーマに沿って日替わりで記事を書いていきます。ЛЮБОВЬ(リュボーフィ)とは、ロシア語で「愛」を意味します。

「ロシア軍」とはなにか?「ソ連軍」とはなにか?

 現在の国防大臣を知らない人はいても、「ロシア軍」という言葉を耳にしたことのない人間はいないはずだ。だが、ロシアには軍がいくつもあると聞けば多くの方は目を見開くはずである。この記事がそんな方々のために「ロシア軍」という概念を理解していただける端緒となれば幸いである。

 ことの起こりは赤軍の創設にある。設立当初の「赤軍」(正確には名前が異なるが)は実に単純であった。ボリシェビキの軍事部門は一つにまとまっていたのである。そもそも、着の身着のままの被服のこの若き軍隊に、兵科や部局以上に多種多様な組織を揃える必要も余力も無かったのである。しかし内戦が終わり、国家運営を本格的に行う段になると、やはり分野別に分ける必要が出てくる。そこで大祖国戦争までには武力組織は赤軍と内務人民委員部(以下:NKVDと表記)管轄下の軍とに分けられた。ちなみに、NKVDといえば秘密警察であるというような言説が一般に広まっているが、これは大分誤解のある表現である。ここで言う秘密警察とは国家保安総局であり(特殊科、通称スメルシの離散集合についてはNKVDの権勢をそぐ狙いを含め初心者向け記事のため気にしないこととする。)、この総局はNKVD内の国内軍、国境軍(なお、大祖国戦争中にはこの2つは統合され後方保安軍という単位が設定された。)、民警(警察)といった組織と同列の組織であり、決してNKVD自体が秘密警察であったという訳ではなく、そのような認識は国家防衛委員会防諜部などの存在を無視することになる。更に言えば、41年に短期間、43年から53年まで、54年以後においてはNKVDから保安部門が独立しており、この期間のNKVD、内務省を秘密警察的に評価することは大きな誤謬であると言える。話がそれたがここでソ連、ロシア軍の認識において重要な概念を述べたい。それは「外敵の撃退、国外での戦闘を主眼とする軍隊」と「国内での戦闘を主眼とする軍隊」という枠組みの概念である。前者には赤軍が、後者には国内軍や国境軍が当てはまる。この構図は赤軍がソ連国防軍になっても、NKVD内の武力組織が最終的にKGB(国境軍)と内務省(国内軍)になっても続いた。現在でもこの「外敵の撃退を主眼とする軍隊」と「国内での作戦(治安維持)を主眼とする軍隊」という枠組みの概念は変わらず、前者には連邦軍が、最近までは後者には内務省国内軍、ロシア連邦保安庁(FSB)国境軍、連邦非常事態省が相当していた。なお、現在では2016年以降、後者のうち国内軍の所属が変わり、内務省内の民警内の治安維持任務を行う武装組織ごと新設の国家親衛軍の管轄下に移動。治安維持系組織の指揮系統の一本化、合理化が断行されている。

 この記事では初心者向け記事のためあくまで「外敵の撃退を主眼とする軍隊」と「治安維持を主眼とする軍隊」という枠組みでのみ単純化して書いたが、もちろんソ連民間防衛部隊、ロシア非常事態省や内務省武装警備員サービスなども存在する。また、公的武力組織ではないものの退役軍人等で構成され、戦車や戦闘爆撃機まで運用し、前線任務を行う「民間軍事会社」、ワグナー社もロシア政府との強いつながりがあるという点である種公的な存在である。ここに出てきた組織の名称は多くの読者にとってさして覚える必要もないものであろう。しかし、今後「ロシア軍」という言葉を耳にした際、「外敵の撃退を主眼とする軍隊」と「国内での作戦(治安維持)を主眼とする軍隊」という概念を思い出していただければ認識に深みがでるはずで、記憶の片隅にでもとどめておいていただければ幸いである。

 

文責:S

 

今日のロシア語

истребитель-бомбардировщик(イストレビーチェリ バンバルヂローフシク)

意味:戦闘爆撃機

государственная граница(ガスダールストヴェンナヤ グラニーツァ)

意味:国境