東京外国語大学ロシアサークルЛЮБОВЬ(リュボーフィ)のブログ

「未知なる魅惑の国」であるロシアならではの文化から、留学や旅行のこと、東京外国語大学でのキャンパスライフのことまで。このブログでは、東京外国語大学のロシアが大好きな学生たちが様々なテーマに沿って日替わりで記事を書いていきます。ЛЮБОВЬ(リュボーフィ)とは、ロシア語で「愛」を意味します。

匹田剛教授【ロシア語科教員インタビュー〈後編〉】

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↓インタビュー前編はこちら

tufs-russialove.hatenablog.com

 

 

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匹田先生の専門「ロシア語学」とは?

 ー先生の主な研究分野について教えてください!

ええと、長い話になるなあ…(笑) 簡単に言うと現代ロシア語の文法についてです。特にロシア語の名詞の形に興味があって研究しています。語の意味よりも形に、動詞よりも名詞に着目している、と言ったら分かりやすいかな…。説明するのが難しいのだけれど、意味は捉えどころがないように感じますが、形はぱっと見て分かりやすいから好きというのがありますね。

 

※名詞の変化とは?

ロシア語は、名詞自体の形が変化することでその語の役割を示す言語です。


例1)

 男の子日本語で話します。〈日本語〉

  Мальчикговорит по-японски. 〈ロシア語〉

例2)

 私は男の子おもちゃをプレゼントしました。〈日本語〉
 Я подарила игрушки мальчику. 〈ロシア語〉

例3)

 私は男の子知っています。〈日本語〉
  Я знаю мальчика. 〈ロシア語〉


このように、文の中でどのような意味で使うかによって、同じ「男の子」という意味の語でも語尾が異なります。ちなみに、ロシア語では意味の違いによる語の形の使い分け(「格変化」と言います)は、ここで話したものも合わせて単数形で6種類、複数形で6種類あります。つまり、例外を除くほとんどの語が12種類の変化形を持っているということになります。

 

ー今までたくさんの論文を執筆されたと思いますが、匹田先生は具体的にはどんな流れで完成まで辿り着くのでしょうか?

まずは、疑問を持つところが最初なんですよ。でも、答えが見つかりそうなものを選びます。スケールが大きすぎてあまりにも壮大だと論文が書けないですからね。

そこから、自分の持つ知識でいろいろ考えてみるんです。ああでもない、こうでもない、というように。そうしているうちに、だんだんと手掛かりになりそうなことが見えてくるんですね。

でも、不思議なことに、当初の疑問の答えに繋がるものはなかなか出てこないんだよね…。自分が想定していたものと異なる答えに辿り着くことももちろんあります。そして、そこで出たある答えや仮説がある程度確実かどうかの確認作業をしていきます。これがデータ集めです。自分の仮説をデータで固めていくようなイメージです。

このデータ集めの段階で、自分の仮説の間違いに気づいてしまうことももちろんあります。その時には1からやり直しです…(笑) それが1番つらい時ではあるんだけどね。

ここまでの流れを何度も繰り返した後でようやく論文にどんなことを書くか、どんな構成にするかということをメモに書き起こします。自分の問題意識と論法と結論が分かりやすく表現できる書き方を見つけるんです。

 

—論文の構成について考え始める前の段階で「データ集め」というステップがありましたが、匹田先生は具体的にどのような方法で行っているのですか?

外大の先生方の中で、実際のその言語が話されている地域に一定の期間滞在して調査するフィールドワークという方法でデータを集める先生もいらっしゃいますが、僕はあまりそういうことはしませんね。

ほとんど皆さんと同じようなやり方です。ロシア語のナショナルコーパス(数多くの例文が集められたデータベース)で検索したり、ネイティブスピーカーの知り合いに尋ねたりしています。先行研究の参考データとして掲載されているものに目を通すこともありますね。

 

 

匹田先生が感じる「外大生」像

—東京外国語大学に先生が赴任してきて1番驚いたことはなんですか?

そうだね、やっぱり忙しさかな…(笑) 新しい環境に置かれたことも相まって、精神的にも大変でしたね…。他の先生方もそうみたいなんですが、外大に来て1年目は「暗闇の中を目隠しで全力疾走させられている」みたいな気分だったなあ…(笑) そのぐらい強烈な洗礼を受けたという記憶があります。

 

ー先生が学生として在籍されていた当時と現在とで比較したときに、東京外国語大学の学生の印象について感じていることは何かありますか?

そうだなあ…。世代の違いもあるし、学生側の視点と教授の視点でもちろん印象は変わってくるから一概には言えないけれど、今の外大生は良くも悪くも繊細になっているような気がしますね。僕たち教授陣に対しての言葉遣いから、僕自身が学生だった頃に比べて真面目だな、大人だなと感じることもあります。

それと、これは私が驚いたことなんですが、学生たちの大学に対する満足度が高いんですよね。授業評価アンケートにもポジティブなことを書く学生が多いです。僕が学生だった時代にはあまり感じなかったことかもしれません(笑)

 

—匹田先生から、現在ロシア語を学んでいる学生にひとことお願いします!

そうだなあ、時々ゼミ生から相談されるんだよね、「僕どうしてもロシアのことが好きになれないんです」って…(笑) ロシア語学のゼミに入るくらいだから、ロシア語を勉強すること自体(単語を調べたり、文法を学んだりすること)は面白いと感じてくれていると思うんだけれど、そんな風に思う学生もいるんだよね。

でも、それでいいと考えています。

ロシア語を勉強することとロシアのことが好きということは全く別の話で。ロシアを相手に仕事をすることとロシアが好きということもまた全然違った話になってくると思います。語学は語学。仕事は仕事。なにもロシアのすべてを好きでいる必要はないように感じますね、結婚相手じゃないんだから(笑)

だから、必ずしも「ロシア語への興味=ロシアへの興味・好意」ではない気がするんですよね。これは私が学生の皆さんに向けて強く言っておきたいことです。

「ロシア語学を学んでいるけれどロシアが好きになれなくてもいいんですか!?」と言ってくる学生が意外と多いからね。留学したい人でもそう言うし。無理に愛そうとしなくていいんじゃないかな。自分が楽しけりゃそれでいい!そう思います。

 

海外に留学を予定していた学生は、誰しも大きな決断を迫られることが多かった、去年からの1年間。私たちが大切にするべきものは案外シンプルなものだと、先生はご自身の経験談を通して私たちにお話してくださったと感じています。自分の気持ちに向き合いながら、可能性を狭めることなくチャレンジしてみようと思うことができました。

お忙しい中、今回のインタビューに快く応じてくださった匹田剛先生、本当にありがとうございました。この場をお借りして深くお礼申し上げます。

  

最後に、先生が携わっていらっしゃる書籍を紹介します!興味のある方はぜひ手に取ってみてくださいね!

これならわかるロシア語文法 (NHK出版)

ゼロからスタート ロシア語文法編 (Jリサーチ出版)

 ※匹田先生が担当するゼミ生が中心となって制作

大学のロシア語Ⅰ (東京外国語大出版会)

 

取材・執筆担当:戸板咲紀(4年)、片貝里桜(4年)、高野裕生(1年)

 

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