東京外国語大学ロシアサークルЛЮБОВЬ(リュボーフィ)のブログ

「未知なる魅惑の国」であるロシアならではの文化から、留学や旅行のこと、東京外国語大学でのキャンパスライフのことまで。このブログでは、東京外国語大学のロシアが大好きな学生たちが様々なテーマに沿って日替わりで記事を書いていきます。ЛЮБОВЬ(リュボーフィ)とは、ロシア語で「愛」を意味します。

ロシア人と帽子

我が国でのコロナ禍前の冬のある日、筆者は友人と出かけていた。その時、友人はこう言った。「(頭のそれは)コサック帽?」実際には私の頭に載っていたのはごくごく普通のソ連製ウシャンカ(残念ながら「魚の毛(ソ連時代から、兵、下士官用の低質のゴワゴワしたウシャンカはこのように呼ばれている)」である)であったわけだが、これを説明しても狸に化かされたような顔をされた。(ウシャンカに関しては後述するので少し我慢して読み進めてほしい)

これは我が国においてはごくごく一般的な認識であると思われる。身近に冬になるとウシャンカを被る人間がいるかは別として、大抵の人間にとって、「ロシア的」であると思われる帽子はすべて「コサック帽」の枠組みに投げ入れられるものと思われる。正直なところ、生活する上でこの点を気にする必要性が将来に渡って出現する人間は少ないかもしれない。よって、筆者としてはこれらの帽子についての知識を頭の片隅にでもおいていただければ、と考える次第である。

まずもってコサック帽とは何なのか。そのためにはなぜコサック(リンク:コサックに関するブログ内過去記事 )は帽子を被るのか?という点について述べなければならない。コサックは彼らの歴史の本の第1章において、自らの手で自らや仲間を守らねばならなかった。これは元来彼らが政府による支配を嫌って辺境に集った民だったからだ。そういうわけで彼らは良き狩人、良き農民であるとともに優れた武人でもあった。さらに言えば国外においては優れた(?)略奪集団でもあったので、彼らの帽子は必然的に武具の一つとしての性格をも併せ持っていた。コサック帽と言っても下記の図のように様々な物があるが、全体に言えることとしてはまずもって耳を厚い毛皮である程度保護できるようになっていることである。これはもちろん耳が凍りつくことを防ぐためでもあるわけだが、刀剣による斬撃から耳を保護する役割もある。つまり彼らにとっての帽子は略式の兜でもあったわけだ。そういうわけで、時代が進むにつれコサックたちにとって帽子は誇りを表すものになった。「帽子を被っていないのはろくでなしだ」「プロポーズの際には帽子を投げ入れる」「大きな罪を犯していても、帽子を脱いで謝罪した相手は許されなければならない」「帽子を被っているとき、シャンとしていなければならない」「相談相手が見つからないとき、帽子に相談せよ」......コサックや彼らの居住地域、特にカフカスの人々にとって帽子は第2の自分となったのであった。ただし、すべてのコサックが常に耳を保護する形式の帽子を被っていたわけではない。例えばウラル・コサックは①のようにストレリツィ(銃兵隊)然とした古めかしい帽子を被っていたし、

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ドン・コサックは丸つばのフラーシカ(制帽)と併用していた。耳を守るコサック帽には大きく分けて②と③の二種類がある。

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どちらもパパーハという名前だ。②のうち、白身がかった灰色の高級なアストラハン毛皮で作られたものはアストラハン帽という。もしあなたが佐官以下の軍人なら、この白っぽい帽子を見たら敬礼しなくてはならない。なぜなら、その帽子の下には大抵の場合将官か元帥の顔があるからだ。

ウシャンカの説明に入る前に、ブジョンノフカについて説明しなければならない。この帽子は対ソ干渉戦争の折に赤軍が開発したもので、第一騎兵軍で手柄を立てていた猛将ブジョンヌイの名前から命名された。(ただし、帝国が対独戦勝式典を見越してスラブ式兜に似せて発注していた帽子を倉庫から見つけただけとの説もあり、こちらもかなりの裏付けがある。)この帽子は赤軍を象徴するものとなり、広く愛用された......が、防寒性能は今ひとつであった。このブジョンノフカの後継として採用されたのがウシャンカ④である。

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この帽子は今ではロシア人を表すアイテムの1つとなっている。この帽子は社会のあらゆる部分にいる人の頭の上にあった。もはや説明が不要なほどだが、一応簡単に機能を説明すると頭頂部に持ち上げられた耳あてを下ろすことで耳も十分寒さから守ることができる。

最後にその他のよく見る帽子について説明しよう。フラーシカと東欧式鳥打帽の2者である。先程はフラーシカ(制帽)と表記したが、制帽形式の帽子は帝政時代から民間、特に非ブルジョワに広く普及していた。顎紐の有無、生地などは様々である。東欧式鳥打帽は、フラーシカのトップを崩した、いわゆるクラッシュキャップ形式のものである。3点スーツをしっかり身につけたレーニンも、この帽子をかぶればいかにも庶民、という印象になる。要するにキャスケットである。

色々と書いたが、ロシア人の帽子への理解は深まったであろうか?読者諸氏も夏はキャスケット、冬はウシャンカやパパーハを被ってみよう。少なくとも首から上に関してはとてもロシアという感じになるはずだ。

 

文責:S

 

*今日のロシア語*

ушанка(ウシャーンカ)

 意味:ウシャンカ

папаха(パパーハ)

 意味:パパーハ

носить(ナスィーチ)

 意味:身につける