東京外国語大学ロシアサークルЛЮБОВЬ(リュボーフィ)のブログ

「未知なる魅惑の国」であるロシアならではの文化から、留学や旅行のこと、東京外国語大学でのキャンパスライフのことまで。このブログでは、東京外国語大学のロシアが大好きな学生たちが様々なテーマに沿って日替わりで記事を書いていきます。ЛЮБОВЬ(リュボーフィ)とは、ロシア語で「愛」を意味します。

それは無念か信念か。 文豪たちの遺稿

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Привет(プリビェット/こんにちは)!最近、自分が競歩に向いていることに気付いたУです!

今回は『生ける屍』にちなんで、文豪たちの遺稿・未完成の作品についてお話ししたいと思います!

ご一読いただけると幸いです!

 

※遺稿とは

遺稿とは「未発表のまま死後に残された原稿」のことです。未発表になった理由は、書ききれなかった、書きたくなかった、書くのをやめた…とさまざま。しかし、そうして今語られる理由も推測に過ぎず、真相は永遠に謎のままということも往々にしてあるようです。私は縄文時代で諦めた日本史のまとめノートを3冊所有しています。


芥川龍之介(1892-1927)『歯車』(1927) 

 『羅生門』や『蜘蛛の糸』などで知られる芥川には数々の遺稿があります。『歯車』は、晩年に書かれたもので、第一章だけが生前に発表されました。芥川を自殺へと追いつめたとされる幻想が織り込まれており、同時代の作家たちが数ある芥川の作品の中でも傑作であると評したとされています。すごい世界。

作中、主人公の「僕」がトルストイの”Polikouchka”(«Поликушка»)を読み、「この小説の主人公は虚栄心や病的傾向や名誉心の入り交つた、複雑な性格の持ち主だつた。しかも彼の一生の悲喜劇は多少の修正を加へさへすれば、僕の一生のカリカテユアだつた。」などという場面が出てきます。«Поликушка»は日本語の翻訳がないので、英訳版を読んだのでしょうか?あと個人的には精神的に不安定な時はロシア文学は読まない方がいいと思いました。

ちなみにトルストイは犬好き(ボルゾイの愛育家)ですが、芥川は死の直前までは大の犬嫌いだったそうです。

 

太宰治(1909-1948)『グッド・バイ』(1948)

『グッド・バイ』は太宰治の代表作『人間失格』と合わせて刊行された未完成の短編です。『人間失格』はその連載最終回の直前に太宰が自殺したため、遺稿に近いものと言えるかもしれません。

『グッド・バイ』の主人公・田島は田舎に妻子ある身ながら、東京で単身、闇商売をしながらたくさんの愛人を養っていましたが、ある日一念発起して足を洗い、妻子と東京で暮らそうと決意します。そこである美人に女房役を依頼し、愛人たちと円滑に別れようとするが…というところで絶筆となっています。そんなバカな!ここからじゃん!

作品冒頭、田島が同僚から「まさか、お前、死ぬ気じゃないだろうな。実に、心配になって来た。女に惚られて、死ぬというのは、これは悲劇じゃない、喜劇だ。いや、ファース(茶番)というものだ。滑稽の極だね。」という言葉をかけられる場面があります。

もつれた女性関係の末に愛人と入水自殺(推定)しながら、遺書には妻に向けて「お前を誰よりも愛してゐました」と遺した(とされる)太宰がそれを書くのか!と思わずツッコみたくなります。

 

宮沢賢治(1896-1933)『銀河鉄道の夜』(未定稿)

ここらで自殺していない文豪を。今回取り上げた『銀河鉄道の夜』の他にも『風の又三郎』や『セロ弾きのゴーシュ』など、宮沢賢治の代表作は生前には世に出ることのなかったものばかりです。なんか悔しい!

銀河鉄道の夜』は未定稿のまま残された作品で、研究者によってさまざまな解釈がなされいています。かの有名な「雨ニモマケズ」も遺品の手帳から発見されたもので、この作品では文字の書き損じ(?)が一つの論点になっているそうです。ロシア語の筆記体だとどうなるんだ…と研究者でもないのに気が遠くなりました。(わからない方は「ロシア語 筆記体」で検索してみてください。私は留学先で教室番号のメモが読めず路頭に迷いました。)

 

フョードル・ドフトエフスキー(1821-1881)『カラマーゾフの兄弟』(1880)

罪と罰』『白痴』『悪霊』など重めのタイトルの傑作達で知られるロシア文学界の巨匠、ドストエフスキーの最後の長編小説です。この作品は生前に刊行されているため遺稿ではありませんし、物語も終わっているため完結作品として知られています。しかし、実は当初は現在刊行されている一部とその13年後を描いた二部の二部構成の予定だっため、未完成とも言える作品です。

 

ニコライ・ゴーゴリ(1809-1852)『死せる魂』(1842)

『鼻』(めっちゃ面白いし、これ書けるゴーゴリすげぇ!って作品です。おすすめ)や『狂人日記』などで知られるゴーゴリの長編小説です。今回の当初のテーマである『生ける屍』と対のようなタイトルですが、何ら関係はありません。これも『カラマーゾフの兄弟』と同様、二部構成の一部のみが完成したものです。

 


いかがでしたか?作品に触れる時、その制作背景や年代に触れるのも面白いかもしれません。未完の作品に関しては、他の小説家が想像して完結編を書いたものもあります。遺稿・未完成だからこその楽しみ方で味わうのもまた一興ですね。

 

今回は文豪たちのトンデモエピソードが楽しくて長くなってしまいました!お付き合いいただきありがとうございます。

 

秋も深まりいよいよ冬がやってきます。お体に気をつけて!
以上、Уでした!

 

文責:У

 

*今日のロシア語*

『生ける屍』Живой труп(ジーボイ トュループ)

『死せる魂』Мёртвые души(ミョールトヴィエ ドゥーシィ)


【参考文献】

蔡暉映(2008)「成長物語としての『銀河鉄道の夜』 : ジョバンニとカムパネルラ」比較文学・文化論集 (25), 22-37, 東京大学比較文学・文化研究会.

齋藤繁(2013)「芥川龍之介「歯車」の暗号」弘前学院大学社会福祉学部研究紀要 (13), 15-36,
弘前学院大学社会福祉学部.

鈴木聡(2008)「亀山郁夫著 『ドストエフスキー―謎とちから』 文春新書 」総合文化研究(Trans-Cultural Studies) (11), 151-159, 東京外国語大学総合文化研究所.

入沢康夫(2010)『宮沢賢治の「ヒドリ」か「ヒデリ」の論争』書肆山田.

新潮社「太宰治『グッド・バイ』」(https://www.shinchosha.co.jp/book/100608/)

 

◆コンツェルト本公演「生ける屍」について◆
ロシア語劇団コンツェルトは創立50周年を迎える歴史ある演劇サークルで、早稲田大学東京外国語大学お茶の水女子大学等様々な大学の学生が集まって構成されています。普段は早稲田大学戸山キャンパスで週2,3回のペースでお稽古をしているそうです。

記念すべき50回目の今年の本公演ではトルストイ原作『生ける屍 «Живой Труп»』を上演されます。ぜひあなたも足を運んで、ロシア語劇の魅力を堪能してくださいね!

●日程:12月25日(金)〜27日(日)

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