東京外国語大学ロシアサークルЛЮБОВЬ(リュボーフィ)のブログ

「未知なる魅惑の国」であるロシアならではの文化から、留学や旅行のこと、東京外国語大学でのキャンパスライフのことまで。このブログでは、東京外国語大学のロシアが大好きな学生たちが様々なテーマに沿って日替わりで記事を書いていきます。ЛЮБОВЬ(リュボーフィ)とは、ロシア語で「愛」を意味します。

ヒュメーンの仰せのままに

Здравствуйте!!!(ズドラーストヴィチェ/こんにちは)

リュボーフィのテッフィ担当ことそーにゃです。

今回から翻訳特集ということで、自分が何度か記事で取り上げたН.Тэффи(テッフィ)の詩を一編、翻訳してみました。

 

過去の記事はこちら

tufs-russialove.hatenablog.com

tufs-russialove.hatenablog.com

 

БЕДНЫЙ АЗРА

 

Каждый день чрез мост Аничков,

Поперек реки Фонтанки,

Шагом медленным проходит

Дева, служащая в банке.

 

Каждый день на том же месте,

На углу, у лавки книжной,

Чей-то взор она встречает -

Взор горящий и недвижный.

 

Деве томно, деве странно,

Деве сладостно сугубо:

Снится ей его фигура

И гороховая шуба.

 

А весной, когда пробилась

В скверах зелень первой травки,

Дева вдруг остановилась

На углу, у книжной лавки.

 

"Кто ты? - молвила,- откройся!

Хочешь - я запламенею

И мы вместе по закону

Предадимся Гименею?"

 

Отвечал он: "Недосуг мне.

Я агент. Служу в охранке

И поставлен от начальства,

Чтоб дежурить на Фонтанке".

 


毎日アニチコフ橋を通って、

フォンタンカ川を横切って、

ゆっくりとした足取りで、

銀行勤めの乙女は行く

 

毎日そこの

本屋さんの角で

誰かの眼差しに出会う、

じっと爛々とした眼差しに

 

乙女は物憂げに、なんだか奇妙に

そして格別に甘やかに感じられた:

彼女はその男の姿を

そのカーキ色の帽子を想う

 

春、辻公園に

新緑の草木が萌え出る頃

乙女は突然立ち止まった

本屋の角で

 

「あなたは誰なの、教えてよ!

そしたら私はあなたに焦がれて

掟に従って一緒に

ヒュメーンに身を任せてみる?」

 

彼は答える:「生憎そんな暇はなくてね。

エージェントさ。警備部隊で、

上から派遣されたのさ、

フォンタンカを見廻れってね。」


第5連の4行目に «Предадимся Гименею?» という言葉がありますが、Гименей(ヒュメーン)というのがギリシア神話に登場する、結婚の行列を導く男神であり、その言いなりになる、身をまかす(предаться)という繋がりから結婚申込みのようなニュアンスを想像します。

題名にもなっているАзраというのは、ドイツの作家・詩人H.ハイネの詩Der Asra『アスラ』からきていると考えられます。作品自体もこの『アスラ』に対応するような描写が所々に見られます。意味を調べてみるとヘブライ語で「pure」を意味するそうです。(ソースが乏しいので鵜呑みにはできないですが…)

ちなみにAzraという名前のユーゴスラヴィアのロックバンドがおり、これもハイネのDer Asraから名前を取っているそうです。

 

H.Heine.(1797-1856). Der Asra

 

Каждым вечером спускалась

Дочь прекрасная султана

К основанию фонтана,

Чтобы струй игру послушать.

 

Юный раб ежевечерне,

Где фонтана воды плещут,

На посту стоял бессменно,

Каждый раз сильней бледнея.

 

Как-то вечером принцесса

К нему плотно подступила:

«Знать хочу я твоё имя,

Где твой род и твоё племя!»

 

Раб промолвил: «Моё имя -

Мохамет, и дом мой — Йемен.

Род мой Азра тем известен,

Что от страсти умирает.»

 


夕ごとに、美しい

スルタンの娘が降りてきては

噴水のところで

流れる水の音を聞いていた

 

夕ごとに、若い奴隷が

白い水の揺蕩う噴水のもとに

やって来ては

日毎に青ざめていった

 

ある夕方、女王様は

彼にはたと歩み寄った

「あなたの名前は何?

故郷は?血統は?」

 

奴隷は答えた:「名はモハメット、

家はイエメンでございます。

そして私の一族はあの、

恋をすれば死ぬという、アスラなのです。

 


Der Asra

Taeglich ging die wunderschoene

Sultanstochter auf und nieder

Um die Abendzeit am Springbrunn,

Wo die weissen Wasser plaetschern.

 

Taeglich stand der junge Sklave

Um die Abendzeit am Springbrunn,

Wo die weissen Wasser plaetschern;

Taeglich ward er bleich und bleicher.

 

Eines Abends trat die Fuerstin

Auf ihn zu mit raschen Worten:

Deinen Namen will ich wissen,

Deine Heimat, deine Sippschaft!

 

Und der Sklave sprach: Ich heisse

Mohamet, ich bin aus Yemmen,

Und mein Stamm sind jene Asra,

Welche sterben, wenn sie lieben.


この詩も一応訳してはみましたが、原文はドイツ語で露訳を日本語に訳しているため原作のニュアンスが出ていない部分があるかも知れません…

どちらの詩にも男女が1人ずつ登場しており、最後の2連が会話になっています。女性が男性に声をかける、男性が「使える」立場にある、フォンタンカ川と噴水(фонтан)という水のイメージ、そして詩のストーリーも似たようなプロセスを辿っています。

ロシア語で検索をかけても詩の具体的な解説は見つからず、細かい描写やそのニュアンスは掴めていないのですが、関係性や状況は共通しているもののテッフィの方はフランクで明度の高い印象を受け、しかし題に残された«бедный»がハイネの方を引き寄せ、とても立体的になっているように感じました。

なんの説明にもなってないですね…

なんだか内容がとんでもなく薄いような気がしますが、今回はここまで。

Пока〜(パカー/またね)

 

 

文責:そーにゃ

 

 

*今日のロシア語*

Бог(ボフ)

 意味:神

только Бог знает(トーリカ ボフ ズナーイェト)

 意味:「神のみぞ知る」