東京外国語大学ロシアサークルЛЮБОВЬ(リュボーフィ)のブログ

「未知なる魅惑の国」であるロシアならではの文化から、留学や旅行のこと、東京外国語大学でのキャンパスライフのことまで。このブログでは、東京外国語大学のロシアが大好きな学生たちが様々なテーマに沿って日替わりで記事を書いていきます。ЛЮБОВЬ(リュボーフィ)とは、ロシア語で「愛」を意味します。

Тэффи にまつわる et cetera

Здравствуйте!(ズドラーストヴィチェ/こんにちは)

 

2ヶ月ぶりくらいに筆を取った気がします!

 

さて、今回のテーマは「詩」です!

 

詩というのはロシアにおいて非常に大きな地位を占める文学ジャンルであり、ロシア近代文学の嚆矢とも称されるアレクサンドル・プーシキンを始めとして様々な詩人が名を残しています。

とりわけ20世紀初頭には「銀の時代」と呼ばれる時代を迎えており、著名な詩人がたくさん登場します。様々な派閥やグループが登場し、新たな表現手法や志向を開拓していきました。

今回はある作家の詩を、作者の経歴とともに紹介したいと思います。

 

それは

 

ナジェージダ・テッフィ(Надежда Тэффи)という女性作家です。
聞いたことのない方も多いかもしれません。自分も少し前に偶然知って、名前の響きが可愛らしくて記憶に残っています。

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彼女は1872年5月6日にサンクトペテルブルクに生まれました。父は雑誌『судебный вестник(スヂェーブヌィー ヴェーストニク/裁判報知)』の編者で刑法学者のアレクサンドル・ロフヴィツキー、姉の一人は「ロシアのサッポー」(※サッポー:古代ギリシアの女性詩人)と称されたマリヤ・ロフヴィツキーです。リティヌィ通り(Литейный проспект/リティヌィー プラスピェークト)にあるギムナジウムで教育を受けました。

 

1892年に夫ヴラジスラフ・ブチンスキーとの間に長女が生まれた後、ベラルーシのモギリョフ郊外の領地に引っ越すしました。1900年に娘エレナと息子ヤネックが誕生します。しかし数年後に離婚し、テッフィはペテルブルクへと戻ります。この頃から文芸活動を開始し、1901年に最初の作品が旧姓で出版されます。
Тэффи(テッフィ)のペンネームがはじめて使用されたのは1907年のことでした。この名前は実家の下男Сепана Стеффи(セパナ ステッフィ)から取ったそうです。彼女の活動は革命以前のロシアでは見られなかったような人気を博し、彼女の名前を冠したтэффиというチョコレートや香水が売られるまでとなりました。1908〜1918年にかけて(ⅰ)“Сатирикон”(サチリコーン/「サテュリコン」)や“Новый Сатирикон”(ノーヴィー サチリコーン「新サテュリコン」)といった雑誌の執筆を行なっており、1910年には“Шиповник”(シポーヴニク/「薔薇」)という出版所から初めての書籍と物語集を出版しました。人々からは慧眼の持ち主で、善良かつアイロニカルな作家と評されていました。

(ⅰ) サテュリコン…ペトロニウスによって書かれたとされる古代ローマの小説

 

いくつかの喜劇的な出来事を認めた小作品も常に高い人気を博していました。
革命の機運が高まっていた時期にボリシェヴィキの“Новая жизнь”(ノーヴァヤ ジーズニ/「新生活」)紙と協働しましたが、その時代の文学活動は彼女の作家人生の中で重要な爪痕を残すには至りませんでした。また同様に1910年、“Русское слово”(ルースカイ スローヴァ/「ロシアの言葉」)紙で時事をテーマとした社会世相戯評の執筆を試みましたがこちらもうまくはいきませんでした。

 

1918年の終わりに有名な風刺作家のアルカージー・アヴェルチェンコと共に演説のためキエフへと発ち、それから一年半ロシア南部(ノヴォロシースク、オデッサ、エカチェリンブルク)を放浪しました。そして最終的にコンスタンティノープルを経由してパリへと行き着き、その後1931年に自叙回想録の中でその旅路について書き記しています。

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彼女はロシアと革命の中で生きることを余儀なくされた人々に思いを馳せていました。
当時の彼女にとって真に重要であったのは子供のような未熟さと道徳的な真理への傾倒であり、「愛」というテーマが彼女の作品の中で最も重要なポジションの一つを占めるようになりました。
自身の創作活動の黎明期にテッフィは自らの作品から、それまでの彼女の作品の根幹をなすものであったアイロニカルで風刺的な基調を完全に排除し、晩年には「愛」と「慎ましさ」と「晴れやかさ」といったものが彼女の作品の基調となりました。


作家についての説明はこれくらいにして、ここからは彼女の詩を二つほど紹介させていただきます!

 


Черный карлик

 
Мой черный карлик целовал мне ножки,
Он был всегда так ловок и так мил!..
Мои браслетки, кольца, серьги, брошки
Он убирал и в сундучке хранил.
 
Но в черный день печали и тревоги
Мой карлик вдруг поднялся и подрос…
Вотще ему я целовала ноги —
И сам ушел, и сундучок унес!
 
Журн. «Сатирикон». 1909, № 18

 

 

黒い小人


私の黒い小人、私の足にキスした
いつも抜け目なくて、それでいてとっても可愛らしい!…
私のブレスレットもリングもイヤリングもブローチも
あの子が取っ払ってケースに仕舞っちゃった

けれど、悲しみと不安の渦巻いていたあの日
私の小人が突然立ち上がって大きくなってしまった
徒に彼の足にキスしてみる ー
けれどもう行ってしまった、ケースを持ち去って!

 


Марьонетки


Звенела и пела шарманка во сне…
Смеялись кудрявые детки…
Пестря отраженьем в зеркальной стене,
Кружилися мы, марьонетки.

Наряды, улыбки и тонкость манер,-
Пружины так крепки и прямы!-
Направо картонный глядел кавалер,
Налево склонялися дамы.

И был мой танцор чернобров и румян,
Блестели стеклянные глазки;
Два винтика цепко сжимали мой стан,
Кружили в размеренной пляске.

«О если бы мог на меня ты взглянуть,
Зажечь в себе душу живую!
Я наш бесконечный, наш проклятый путь
Любовью своей расколдую!

Мы скреплены темной, жестокой судьбой,-
Мы путники вечного круга…
Мне страшно!.. Мне больно!.. Мы близки с тобой,
Не видя, не зная друг друга…»

Но пела, звенела шарманка во сне,
Кружилися мы, марьонетки,
Мелькая попарно в зеркальной стене…
Смеялись кудрявые детки…

 


マリオネット


夢の中で手回しオルガンが鳴り響いて音を奏でていた
巻き毛の子供たちが笑っていた
鏡の壁にあちこち姿を映しながら
私達は回る、マリオネットだ

装い、微笑み、そして柔らかな物腰、ー
バネはそんなにも強く、真っ直ぐに!ー
トランプの紳士が右を見て、
淑女が左へ向かう

そして私のダンサーは黒眉で紅い頬、
ガラスの目が煌めいている;
二つのネジが私の身体をしっかりと押さえつけて
軽快な踊りの中で私を回した

「ああ、君が私を見てくれさえすれば、
自分の彩り豊かな心に火をつけよう!
私たちの終わりのない、呪わしい道を
君の愛で解き放とう!

私達は暗く厳しい運命に囚われた、ー
永遠に回り続ける衛星…
恐ろしい!… 辛い!… 君とは仲が良い、
お互いのことを見たり、知ったりはしないけれど

けれど夢の中で手回しオルガンは音を奏で、鳴り響いていた、
回る私達は、マリオネット、
鏡の壁のあちこちに二人を映しながら…
巻き毛の子供たちが笑っていた…

 

良い機会ということで今回この二つを自分なりに訳してみました!拙訳ですみません💦
両方ともファンタジーのような、子供の頃に空想した世界のような雰囲気を感じられます。また二つ目の詩はリズムも面白く、弱強弱というリズムが基本になっています。このワルツのような、跳ねるようなリズムとマリオネットというテーマ、そして作中に出てくる「ダンス」を想起させる言葉がマッチして、まるで曲のようにも感じられます。
他の詩はまだあまり読めていないのですが、こういったテーマがテッフィらしさなのかもしれませんね。

 

テッフィについてはインターネットで検索しても日本語で得られる情報が極端に少なく、今回はロシア語のサイトを主に利用しました。今後も少しずつテッフィについて、そして彼女の他の作品やそれぞれの作品の細かい分析などを見ていけたら、と思います!

というわけで今回はここまで!

Пока〜

 

 

文責:そーにゃ

 

 

*今日のロシア語*

поэт(パエット)

 意味:詩人

※「女性詩人」は"поэтесса(パエテッサ)"という言い方もありますが、差別的なニュアンスを含んでいると考える人もいるので、性別にかかわらず "поэт(パエット)"を使うことが多いです。

 

【参考サイト】

https://listim.com/persons/info/nadezhda-teffi