Добрый день(ドーブルィ ヂェーニ)!
こんにちは。ロシア地域専攻3年のRです。
19世紀後半のロシアと聞いて、皆さんは何を思い浮かべるでしょうか?高校の世界史で習う出来事としては、1861年の農奴解放令、1863年のポーランド独立運動、1870~80年代のナロードニキ運動とその挫折、1881年のアレクサンドル二世暗殺など、いくつもの重大な出来事がありますね。さらに1890年代以降は、露仏同盟の締結を背景としてシベリア鉄道建設を行ったり、重工業が発展したりと、今まで以上に近代化が進んだ時代でもありました。いわゆる第二次産業革命です。
ではこの時代、文化の側面ではどのような変化があったのでしょうか。
19世紀のロシア文学といえばドストエフスキー(1821~1881)やトルストイ(1828~1910)、チェーホフ(1860~1904)のような、写実主義・自然主義と呼ばれる文学が有名ですね。しかし一方で、ナポレオン戦争後の民族主義の高まりによるロマン主義の台頭がロシアにおいても存在したことを忘れてはなりません。国民詩人、プーシキン(1799~1837)がその代表です。
民族意識の高揚は、民衆文化の再評価に繋がりました。「ロシアのグリム」とも呼ばれる民俗学者アファナーシエフ(1826~1871)がロシアの民話を集め、研究したのもこの時代です。
美術の分野でも変化がありました。他の芸術分野と同様、民衆文化に目が向けられるようになりました。サンクト・ペテルブルクやモスクワで、〈移動展派〉〈アブラムツェヴォ派〉〈芸術世界派〉といった、芸術の潮流がいくつか生まれました。
このような、民族意識の高揚による民衆文化の再評価、それに伴う文学や美術の興隆、そして、印刷技術の発達と出版界の成長・・・いくつもの要因が重なり合い生まれたものがあります。なんだと思いますか?
それは、絵本です!!絵本は、文学、美術の両方の興隆なくしては生まれないものですし、印刷技術の向上なくして素晴らしい絵本が世に出回ることはありません。
そして、ロシアの絵本を語る上で欠かせないのが、画家イワン・ビリービン(1876~1942)です。さて、ここからが今日の本題です。
イワン・ビリービンは、19世紀後半から20世紀初頭にかけて活躍した画家・グラフィックデザイナーです。彼は、1876年にペテルブルクで名家の長男として生まれました。幼少期は病弱で、しかし成績優秀な子供でしたが、次第に美術に魅せられ、興味を深めてゆきました。父の希望に応えて大学では法律を勉強したものの、卒業後、彼は画家へ転身します。
彼の功績は、なんといっても『ロシア昔話シリーズ』というロシアの民話を題材とした絵本を出版したことにあります。このシリーズは計6冊出版されました。
中身もとっても素敵ですよ!
これは、「Василиса Прекрасная(うるわしのワシリーサ)」という、民話に基づく絵本の挿絵です。私は全く美術に明るくないのですが、しかし、それでもこの絵がもたらす独特な雰囲気に思わずため息が出てしまいます。
なぜ彼は民話の世界を描こうと思ったのでしょうか?
それは、絵を学んでいた際に、ヴィクトル・ヴァスネツォフという画家の個展を見たことがきっかけだったようです。ヴァスネツォフは1899年に『賢者オレーグの歌』という絵本を出し、ロシア絵本界に火をつけたような画家ですが、彼は個展においてロシア民話をモチーフにした絵画を多数出展していました。それがビリービンの心に深く刺さったようです。
そして、この幻想的な絵、それこそロシア民話の世界を具現化したような絵を、なぜ彼は描くことができたのでしょうか。
それは、彼が実際にロシアの田舎に行って民俗調査を行い、豊かなロシアの自然を大量にスケッチしたからでした。
ビリービンの絵に興味を持った方には、田中友子著『ビリービンとロシア絵本の黄金時代』という本を是非手に取って読んでいただきたいです。ビリービンが描いた情景や人物を数多く眺めることができますし、彼に影響を与えたのはどのようなものか、そして、彼自身はその後のロシア絵本界にどのような影響を与えたかを知ることが出来ます。
ビリービンはその後、ロシア革命の波に飲み込まれてしまい、その作風は迷走してしまいます。そして、亡命をしてエジプトやフランスで過ごすのですが、1936年に再び祖国へ帰ってきます。それからは絵を教えたり挿絵を描いたりと以前と同じような生活を送っていたのですが、第二次世界大戦中の1942年、レニングラード包囲のさなかで彼は逃げることを拒み、食料が尽きたレニングラードの地で餓死しました。激動の時代を生きた画家でした。
しかし、こうやって見てみると、社会情勢と文化の流れというのは本当に密接に結びついていると、そう思いませんか?文化は文化、社会は社会と切り離していては見えるものも見えてこないのではないでしょうか。
なんて、最後に我が大学について(言語文化学部と国際社会学部の分断について)愚痴をこぼしてしまいましたが、それはともかくとして、ロシア絵本の世界、そして、その草分け的存在となったイワン・ビリービンについて、少しでも多くの方に知っていただけると嬉しいです!ここまで読んでくださりありがとうございました。
До свидания! (さようなら!)
R
*今日のロシア語*
книжка с картинками
(クニーシュカ ス カルチーンカミ)
意味:絵本(絵入りの本)
сказка(スカースカ)
意味:昔話、民話、おとぎ話
【参考文献】
田中友子(2014)『ビリービンとロシア絵本の黄金時代』、東京美術
福井憲彦他(2017)『世界史B』、東京書籍
【画像の出典】
http://www.bibliotekar.ru/kBilibin/2.htm