ロシアと中東情勢 〜シリア停戦合意の裏で〜
こんにちは!ももです。
今日も引き続きニュース解説なのですが、今回のテーマは、「ロシアと中東との関係において、シリア内戦がどのように関わっているか」です。
まず簡単にシリア内戦について説明します。この紛争には多くの国や勢力が関わっているのでかなり複雑なのですが、今回はロシアの動きにフォーカスしてまとめました。気になった方はぜひ調べてみてください。
シリア内戦のきっかけは、2010年ごろから中東諸国で広がったアラブの春といわれる民主化運動です。この動きが、アサド大統領による独裁政権が40年も続いていたシリアに波及し、人々が民主化を求めて抗議運動を始めました。最初はデモ運動だったのですが、政府の激しい弾圧に対抗し、徐々に戦いが激化していきました。アメリカが反政府勢力を支援し、ロシア・イランがアサド政府軍を支援するという状況だったのですが、さらにそこに、イスラム過激派組織イスラム国が介入してきました。こうして三つ巴の戦いは長期化・泥沼化し、内戦が始まって9年たつ今も、シリアでは混乱が続いています。
そんな中、今年の3月に新たな動きがありました。トルコのエルドアン大統領とロシアのプーチン大統領が、モスクワで首脳会談を行い、停戦を実施することで合意したのです。
なぜ、トルコとロシアが停戦を合意したのでしょうか。
そもそも、ロシアと中東の関係は、湾岸戦争やイラク戦争などの影響もあり、プーチン時代に至るまであまり良好とはいえませんでした。例えばトルコはNATO加盟国であり、政治を動かしていたトルコ軍部は、ロシアと敵対するアメリカと強いつながりがありました。また、ロシアは世界最大の産油国サウジアラビアとの関係も険悪で、サウジアラビアが1985年に原油増産したことによる、原油価格の大幅下落がソビエト連邦崩壊の一つの原因でした。連邦崩壊後もサウジアラビアやカタールは、民族紛争の絶えないチェチェンなどでロシア国内のイスラム勢力を支援していました。このように、ロシアが中東に対して影響力を持つというよりも、中東によってロシアが揺さぶられる状況が続いていたのです。
しかし、2010年から2012年にかけて中東で民主化を求めるアラブの春が起こったことが大きな転機となりました。アメリカが民主化というイデオロギーのためには体制転換も辞さず、親米政権だったエジプトを見捨てたことに対し、中東の国々の政府は不信感を抱くようになっていきました。一方ロシアは、シリア紛争に関して一貫してアサド政権を支援し、体制転換に反対する姿勢を示してきました。また、エネルギー面で自立を達成し、中東の石油からの依存脱却を図るアメリカがシリアから軍を撤退させたこともあり、代わりにロシアが中東での影響力を強めていったのです。
ロシアが中東での影響力を拡大する目的は何なのでしょうか。1つは、自らの安全保障を強化するためです。トルコ、サウジアラビア、イラン、イスラエルなど相対立する地域の重要なプレーヤーと個別に軍事面やエネルギー面での関係を強化していくことで、弱点だった中東への関与を逆に強めたいという思惑があるようです。
これまで、民主化勢力を支援してきたトルコと、アサド政権を支援してきたロシアとの間で対立が先鋭化した時期もあります。しかし今回停戦合意に至った背景には、NATOに加盟しているトルコとは直接戦いたくないロシアと、大量の難民が流入することを恐れるシリアの隣国トルコの両国が、これ以上事態をエスカレートさせることを避けたいという点で一致し、対立ではなく協力関係を維持する方向に動いたからだといわれています。ここには欧米ではなく両国が主導的役割を担っていく姿勢も示されています。しかし、これまで停戦合意は何度も破られていて、今回も維持できるかどうかは不透明です。アメリカが撤退した今、ロシアが中東の仲介者となって和平をもたらすことができるのか、ぜひ注目していきたいです。
もも
*今日のロシア語*
Турцуя(トゥールツィア)
意味:トルコ
Средний Восток(スレードゥニー ヴァストーク)
意味:中東